― 風情という耳 ―
🗂目次
🍃音を聴く文化
夜の虫の声を、
「うるさい」と感じる国もある。
だが日本では、昔からそれを“美しい音”と呼んできた。
耳で季節を感じ、
音に心を重ねる文化。
それは、自然の中に“意味”を見つける民族の耳。
風の音、川の音、虫の音――
すべてが生きものの言葉として聴かれてきた。
🌾鈴虫の季節
平安の昔から、秋の虫の声は文学に登場する。
『源氏物語』にも『枕草子』にも、
夜を彩る鈴虫の音が描かれている。
「声の秋」とも呼ばれ、
涼しさの中に響くその音は、
夏の喧噪を洗い流すような清涼を持つ。
人はその音に、季節の移ろいを聴いた。
そして、心の静けさを思い出した。
🎐風情という感性
風情とは、
見えないものを感じる力のこと。
鈴虫の声を聴いて、
秋の夜の空気を思い描けるのは、
この感性が生きているからだ。
虫の音は、
日本人にとっての「静けさの象徴」。
沈黙の中に響く音が、
心の奥の静寂と共鳴する。
🌙音を受け継ぐ心
いまも、
家の軒先や寺の庭で鈴虫を飼う人がいる。
それはただの鑑賞ではなく、
音を受け継ぐ行為だ。
その響きが途絶えないように、
誰かが次の季節へ命をつなぐ。
“聴く”という文化が、
この国の静けさを守っている。
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