🦗鈴虫10:江戸の虫籠 ― 鳴く虫を飼う文化

スズムシシリーズ

― 音を住まわせる暮らし ―


🗂目次


🏮虫売りの声

江戸の町には、夕暮れどきになると虫売りの声が響いた。
「スズムシいらんかね──」
竹籠の中で、小さな命が鳴いている。

行灯の灯りがともるころ、
通りのあちこちから同じ声が重なる。
夏の終わりとともに訪れる、
音の季節の始まりだった。


🍃音を飼うということ

鈴虫を飼うのは、
姿を見るためではない。

聞くため、
そして、静けさを手元に置くためだ。

籠の中に敷いた苔、
そっと置かれたナスやキュウリ。
音がよく響くように、木の格子の隙間が工夫されていた。

人は“音”を飼い、
日々の暮らしの中に季節を住まわせた。


🎐江戸の風流

武士も町人も、
虫の声をたしなむのは共通の楽しみだった。

庶民の家では軒先に虫籠を吊るし、
茶屋では虫の音を聴きながら月を眺めた。
それは贅沢ではなく、
日常の中の静かな芸術だった。

風が通るたびに鳴る音は、
人の心を整え、夜をやわらげた。


🌙音のある暮らし

現代では、音は録音できる。
けれど、
生きた鈴虫の声は、どこか違う。

その場でしか響かない、
一度きりの音。

江戸の人々はそれを知っていた。
だからこそ、
一匹の虫に季節を感じ、
命の時間を聴いたのだ。


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