失われた命と、静かな島の時間
南の島の森から、ひとつの音が消えた。
それは誰にも気づかれないまま、静かに終わっていた。
オーストラリア政府は10月24日、
クリスマス島トガリネズミ(Christmas Island Shrew)の絶滅を正式に宣言した。
この小さな哺乳類は、インド洋の孤島・クリスマス島にだけ生きていた。
最後の目撃記録は1985年。
その後、幾度も再調査が行われたが、
森の奥にその姿はもう見つからなかった。
原因は、人が持ち込んだものだった。
ネコやネズミ、そして感染症。
外来種が島に広がり、
生態系のバランスはゆっくりと崩れていった。
捕食され、病に倒れ、繁殖の機会を失い、
いつの間にか森は沈黙した。
絶滅という言葉は、いつも静かだ。
派手な終わりではなく、
“いなくなったことに気づくのが遅い” という形で訪れる。
その静けさの中に、
人の暮らしがどれほど多くの小さな命の上に立っているかが浮かび上がる。
島の夜には、いまも風が吹く。
波の音も、虫の声もある。
けれどそのどこにも、
かつて森を走り回っていた小さな足音はもうない。
わたしたちは、名前を呼ぶことで記憶を残す。
クリスマス島トガリネズミ――
その名が語られるたび、
島のどこかで、まだ風が森を揺らしているように思う。
🌴 特集:島の森が失った静けさ ― 固有種と絶滅の記録 ―
静かに消えていった命、崩れていく生態系、そしてそこに宿る希望。
この10本の観察記は、島という小さな世界から地球全体を見つめ直す記録です。
- 💡今ココ→🐁 クリスマス島トガリネズミ ― 失われた命の記録 ―
- 🐚 固有種という奇跡 ― 島で進化した命たち ―
- 🐾 外来種がもたらす影 ― 崩れていく島の生態系 ―
- 🌳 森が沈黙するとき ― 絶滅が語る環境変化 ―
- 🌊 海に囲まれた世界 ― 陸と海の境界で生きる ―
- 🪶 失われた声 ― 世界の島から消えた生き物たち ―
- 🏝 人が運んだもの ― 観光と開発のゆくえ ―
- 🌿 植物の視点から見た島の変化 ― 森が語ること ―
- 📖 記録に残すということ ― 絶滅と標本の意味 ―
- 🌌 未来への記憶 ― 島が教える自然の摂理 ―
🦣 こちら他の個体数が減ってきた動物たちです
これらの記事では、トガリネズミと同じように失われた命と自然の記憶をたどります。
🌏 せいかつ生き物図鑑・世界編
― 海を渡る命を見つめる観察記 ―🌎前回の記事→グレートバリアリーフの再生 ― サンゴが語る希望と限界
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