サクラの花が散ると、人の視線は一気に遠ざかる。
枝は静まり、地面に落ちた花弁だけが、春の名残として残る。
だが、サクラという木の時間は、
花が終わってからのほうが圧倒的に長い。
葉を広げ、幹を太らせ、枝を伸ばし、
次の年の花芽を内部に準備する。
サクラの本来の生活は、むしろ花の外側にある。
この回では、
花の季節には見過ごされがちな、
サクラの「木としての姿」を見ていく。
🌸 目次
🍃 1. サクラの葉 ― 花のあとに始まる仕事
サクラの葉は、花が終わったあとに本格的に展開する。
これは偶然ではなく、明確な役割分担だ。
花の時期、枝先は生殖に集中している。
受粉を終え、花が散ると、
今度は栄養を作る段階へと切り替わる。
- 形:卵形〜楕円形
- 縁:鋸歯(ギザギザ)
- 役割:光合成による養分生産
葉が作り出した養分は、
実の形成だけでなく、
幹や根、そして翌年の花芽に使われる。
サクラにとって、
葉の季節こそが、最も働いている時間なのだ。
🌳 2. 幹と樹皮 ― 傷みやすい構造
サクラの幹は、見た目に比べて柔らかい。
木材としては加工しやすいが、
腐朽や病気に弱い性質を持つ。
樹皮には、横方向に走る皮目(ひもく)があり、
これがサクラ特有の外見を作っている。
- 材質:水分を含みやすい
- 皮目:ガス交換の役割
- 弱点:傷口から菌が入りやすい
剪定や踏圧、根元の傷は、
サクラにとって大きな負担になる。
「サクラは短命」と言われる理由の多くは、
この構造的な弱さに由来している。
🌿 3. 枝ぶりと樹形 ― 横へ広がる理由
サクラの樹形は、上へ尖るよりも、
横へ、広く枝を張るものが多い。
これは、
光を効率よく受けるための形でもあり、
同時に、花を目立たせる配置でもある。
- 特徴:枝が水平に伸びやすい
- 効果:開花時の視認性が高い
- 結果:一斉開花が際立つ
人が「美しい」と感じる枝ぶりは、
偶然ではない。
サクラ自身が、
その形で最も生きやすかった結果が、
景観として評価されてきた。
🕰️ 4. 花がない季節の役割
花がない季節、
サクラは静かに環境の一部として存在している。
葉は木陰をつくり、
幹は昆虫や地衣類の居場所となり、
実は鳥や小動物の食料になる。
そして、内部では、
次の花芽が準備されている。
サクラは、
一年のうち、ほとんどの時間を
目立たずに過ごす木だ。
その静かな時間があるからこそ、
春の一瞬が、際立つ。
🌙 詩的一行
サクラは、咲いていない時間で、次の春を支えている。
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