― 守りのかたち ―
秋の森に光る小さな球体。
触れれば痛く、割れば甘い。
その中にあるのは、森が磨き上げた「防御」の芸術。
硬い殻と鋭い刺、それは生き延びるための静かな意志だ。
🌾目次
🌱 イガ ― 森の鎧
栗の実を包む「イガ」は、植物の進化が生んだ防御装置だ。
一本一本の刺は改変された葉や鱗片であり、
触れる者を遠ざけ、熟すまでの時間を稼ぐ。
森の中で鳥や獣が見つけても、すぐには食べられない。
そのわずかな時間差が、種の保存を支えてきた。
イガは痛みという形を借りた、命の猶予だ。
🌿 殻 ― 命を守る器
イガの内側には、さらに固い「殻」がある。
木質化した壁のような構造で、湿気や微生物から胚を守る。
水分を弾き、衝撃を吸収し、冬を越える準備を整える。
殻の内側に眠る芽は、春を待つ呼吸のように静かだ。
森はその器を通して、命の時間をゆっくりと引き延ばしていく。
🔥 剥かれる実 ― 人とのあいだにある境界
人はこの殻を割ることで、森の恵みを手にした。
指先や刃物で剥くという行為は、命の境界を越える儀式でもある。
鋭い刺と硬い殻――それを越えた先に、やわらかな甘みが待っている。
森がつくり、人が開く。
その循環の中で、栗は“痛みと恵み”の両方を象徴する存在になった。
🌙 詩的一行
痛みの向こうに、甘さがある。
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