―せいかつ生き物図鑑・雑学シリーズ―
秋の夜、草の根でコオロギが鳴く。
あの声は恋の呼び声。雄が翅(はね)をこすり合わせ、
音で“ここにいる”と伝えている。
翅の一方にはヤスリのような細かいギザギザがあり、
もう一方がそれを弾いて音を出す――まるで弦楽器のように。
気温が下がると音はゆっくりになり、上がると速くなる。
昔の人はそれを“虫の温度計”と呼んだ。
たとえば「鳴き声の間隔が短い夜は、明日は暖かい」と。
科学的にも、鳴きのリズムと気温は比例関係にあることが知られている。
コオロギはまた、日本語の詩を鳴き声で支えてきた虫でもある。
『古今和歌集』にはすでに“こほろぎの声”が登場し、
寂しさや静けさの象徴として詠まれてきた。
人はその声に秋の深まりを聞き、
時に自分の心の音を重ねてきたのだろう。
夜の草むらで鳴く一匹の虫。
その声の中に、季節と心の記憶が宿っている。
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