闇の中でしか見えない光がある。
夜の森に入ると、
足元で何かがかすかに光っている。
葉の裏、倒木の割れ目、湿った苔の隙間――
そこにヤコウタケはひっそりと息づいている。
蛍のような輝きでもなく、
星のような明るさでもない。
もっと静かで、
“見ようとした者にだけ見える光”だ。
🌌 光るという毒
ヤコウタケは発光性の物質と酵素をもち、
酸化反応によって微弱な光を放つ。
その仕組みは、
森の中では毒に近い。
光は捕食者を惑わせ、
胞子を守る。
つまりこの光は、
生き延びるための小さな毒なのだ。
森の闇が深いほど、
その光は強くなる。
まるで、絶望の中でしか
希望が見えないように。
🕯 幻としての存在
人は闇の中で、
光るものに惹かれる。
それがたとえ、毒であっても。
昔の人々はこの光を“死者の魂”と呼んだ。
誰かの命が森に溶け、
きのことなって灯をともす。
だから、ヤコウタケは恐れられ、
同時に、祈りの対象にもなった。
🌙 森の幻
夜の森を歩くと、
光が点々と浮かび、
道を示しているように見える。
けれど近づけば、
すぐに消える。
それは森の幻。
人が踏み込めるのは、
ここまでだという境界。
森は闇の中で、
自分の姿を少しだけ見せ、
そしてまた隠す。
✨詩的一行
光るきのこは、森のまばたき。
闇の奥で、誰かを思い出している。

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