森が最も静かになるとき、そこに白が立つ。
森の中で、
風も止まり、音も消えるときがある。
そんなとき、白いきのこが一本、
木漏れ日の下に立っている。
それがドクツルタケ。
“死の天使”と呼ばれるその名のとおり、
白い衣のような傘と細い茎、
触れれば崩れそうなほど繊細な姿。
けれど、その中には
人ひとりの命を奪うだけの毒が宿っている。
🌫 静寂の形
ドクツルタケには匂いがない。
香りも音もなく、ただ静かに存在する。
その沈黙こそが、森の“拒絶の言葉”。
ベニテングタケのように人を誘わない。
むしろ、踏み込む者を遠ざける。
だがその純白には、
奇妙な清らかさがある。
死を隠さず、静かに立つその姿は、
森の中で最も潔い。
🕯 森の裁き
森には裁きがある。
強すぎるもの、傲慢なものは、
この白に触れることを許されない。
古代では、白いきのこは「神の使い」とされた。
誰もその名を呼ばず、
ただ避け、祈った。
毒とは罰ではない。
それは森の秩序が、
人に向けて差し出す最後の境界線。
🌙 静かな恐れ
ドクツルタケを見た瞬間、
人は無意識に息を止める。
その沈黙が、恐怖よりも深い“畏れ”を生む。
森の中で最も静かなものが、
最も強い。
それは自然の理であり、
人がまだ忘れてはいけない法。
✨詩的一行
静けさの中で、森は警告を語る。
その声は、白のかたちをしている。

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