🍄きのこ22:風化 ― 森の終わりと始まり

崩れることは、再び生まれること。


森の中で、
倒れた木が白くなっていく。
皮は剥がれ、繊維はほぐれ、
触れると指先で崩れるほどやわらかい。
それは「死」ではなく、
森が新しい姿に変わっていく途中だ。

その木の上に、
きのこがひとつ、ふたつと現れる。
それはまるで、森が最後に咲かせる花のよう。
朽ちゆくことを恐れず、
命の終わりを静かに祝っているようにも見える。


🍂 風と時間の仕事

風は、森の彫刻家だ。
雨を運び、胞子を運び、
すべてを少しずつ削っていく。
木が崩れ、葉が土に混ざる。
その中で菌が働き、
命の欠片をひとつの循環に戻していく。

風化とは、
消えることではなく、
還ること。
人が“終わり”と呼ぶ場所で、
森は“はじまり”を始めている。


🌳 崩れていく美しさ

人はしばしば、
朽ちた木や古い森を「汚れ」と思う。
けれどその中にあるのは、
最も純粋な命の形だ。

表面の美しさが失われたとき、
内側の生命が姿を現す。
崩れ落ちた木の中で、
菌糸が光を求めて広がる。
その光は見えないけれど、
森全体を照らしている。


🌾 人の暮らしに重なる風化

私たちの記憶も、
ゆっくりと風化していく。
でも、完全には消えない。
心の奥で、
誰かの声や笑いが柔らかく残っている。

それは、
きのこの胞子が風に乗って森をつなぐように、
記憶が誰かの中で生き続けるから。
風化とは、忘却ではなく継承。
静かに形を変えながら、命は続いていく。


✨詩的一行

崩れるたびに、森は若くなる。
それが風の教える、生の法則。

🔗 キノコ(食用)シリーズ一覧へ戻る

コメント

タイトルとURLをコピーしました