🍄きのこ13:ホンシメジ ― ほんとうのしめじ

分類:ハラタケ目 キシメジ科 シメジ属
学名Lyophyllum shimeji
分布:日本・東アジア・北欧などの針葉樹林帯
発生環境:アカマツ林などの地面に群生(菌根菌)
傘径:3〜10cm前後
食性:共生型(木の根と栄養を交換して生きる)


🌲外見と生態

ホンシメジは、森の静かな床にそっと並ぶ。
色は灰褐色から淡い茶色、
表面にはかすかな光沢があり、湿った朝露をよく映す。
柄は太く短く、力強く地面を支えている。

他の“しめじ”と違い、
ホンシメジは生きた木の根とつながる。
腐敗した木に生えるのではなく、
松やトウヒと共に呼吸する共生菌。
森の中でひっそりと、
木々の健康を支える仲間として存在している。

だからその発生は不安定で、
人工栽培も難しい。
人は長い間「しめじ」と呼ばれる別のきのこを食べてきたが、
“ほんとうのしめじ”は、森の奥でしか出会えない。


🍽️人との関わり

昔から「香り松茸、味しめじ」と言われる。
この“しめじ”こそが本来、ホンシメジのこと。
旨味が深く、歯ごたえは弾力があり、
火を通すと芳ばしい香りが立ち上がる。

味わいはどこか“きのこの理想型”のよう。
華やかすぎず、淡すぎず、
森の空気をそのまま閉じ込めたような調和を持つ。

しかしその希少さゆえ、
市場で見かける“しめじ”の多くはブナシメジ。
人はその代わりに栽培種を育て、
名前の記憶だけを残した。
ホンシメジは、
「本物」という言葉の重みを森の中に守っている。


🌾文化と象徴

ホンシメジの“ほんとう”という響きは、
単に名前の区別ではなく、
「森と共にある命のかたち」そのものを示している。

腐敗の上に生きるきのこが多い中で、
ホンシメジは共に呼吸し、支え合う。
そのあり方は、森の倫理のようでもある。

人がその味に惹かれるのは、
“真実”を食べているような感覚があるからかもしれない。
偽りのない香り、
まっすぐな歯ごたえ。
それは「命の正直さ」を思い出させてくれる。


✨詩的一行

嘘のない香り。
それが森の“ほんとう”の味。

🔗 キノコ(食用)シリーズ一覧へ戻る

コメント

タイトルとURLをコピーしました