― 水を映す草の始まり ―
稲は、風よりも静かに世界へ広がっていった。
人が初めてその穂を手にしたときから、
この草は暮らしといのちを支える存在になった。
イネ属の分類をたどることは、米という食べ物よりも深い、
「草としての稲」の物語を紐解くことでもある。
🌾目次
📘 イネ属とは ― 20種以上の植物のなかで
イネ属(Oryza)は、世界に20種を超える仲間を持つ小さな植物の群れである。
その大半は野生種だが、ただ2種だけが人の手によって栽培化された。
それが、アジアイネ(Oryza sativa) と アフリカイネ(Oryza glaberrima) だ。
稲の分類を知ることは、米という食べ物の背景にある“草としての違い”を理解すること。
形態・生態・歴史・文化——そのすべての基盤に、この二つの存在がある。
🌏 アジアイネ ― 世界を満たした稲
アジアイネ(Oryza sativa)は、アジアで栽培化された稲であり、現代の水田で見られる稲のほとんどを占める。
冷涼な地域から熱帯まで幅広く生き、姿や性質の多様性が大きいことが特徴だ。
内部にはジャポニカ・インディカ・ジャバニカという3つの主要系統があり、
日本の米、インドや東南アジアの長粒米、熱帯の四季に合わせた稲など、
世界各地の食文化を支えてきた。
改良の歴史が長いため、多収性・耐病性・食味などのバリエーションが豊富で、
世界の主食として揺るぎない地位を持っている。
🌍 アフリカイネ ― 乾きを生き抜いた稲
アフリカイネ(Oryza glaberrima)は、西アフリカで独自に栽培化された稲。
乾燥や洪水に強く、害虫への抵抗性も高い。
厳しい環境に適応しながら育つ強靭さが、この種の個性である。
収量はアジアイネに比べると少ないが、
地域の在来農法との相性がよく、伝統的な田んぼでは今も大切にされている。
二つの稲がまったく別の起源を持つことは、遺伝学でも歴史学でも明らかだ。
🌾 品種との関係 ― ジャポニカ・インディカの位置
「ジャポニカ米とインディカ米は別物なの?」
多くの人が抱く疑問だが、これは品種・系統の違いであって、種の違いではない。
ジャポニカ・インディカ・ジャバニカ・黒米・赤米などは、すべてアジアイネの内部にある多様性である。
この位置づけを誤解しないことが、稲を図鑑として理解する第一歩になる。
品種の細かな特徴は、シリーズ後半の「ジャポニカ」「インディカ」「古代米」で詳しく扱う。
🌙 詩的一行
二つの草の歴史が、今日の一膳を支えている。
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