🦀蟹11:ヒライソガニ ― 風の残る岩陰で

― 静けさの中に、まだ海がいる ―


📘 基本情報(図鑑データ)

  • 分類:節足動物門 軟甲綱 十脚目 イワガニ科
  • 学名Chasmagnathus convexus
  • 分布:本州〜九州の内湾沿岸・干潟の岩礁域
  • 体長:甲幅2〜3cm
  • 特徴:甲が平たく、やや青みがかる。波の穏やかな岩陰を好む。
  • 食性:藻類・デトリタス(有機物)を食す。
  • 生息環境:潮間帯の内側、干潟や岩陰の湿った場所。
  • 文化:潮の香りを残す浜辺のカニとして親しまれ、磯遊びや観察記録でもよく登場する。

❄️ 生態 ― 風を避ける場所
荒れた海が落ち着き、
波の音が遠ざかるころ、
岩の影からヒライソガニが顔を出す。

海が暴れたあとの世界は、
どこか息をひそめている。
水しぶきが乾かない岩のくぼみ、
そこに風の残り香がある。

彼らはその場所で動きを止め、
潮が戻るのを待つ。
大きな波に抗わず、
小さな静けさの中で呼吸する。


文化 ― ひとり静かな浜辺で
夏の夕暮れ、
誰もいない浜辺でしゃがむと、
足もとを小さな影が横切る。

ヒライソガニは、
海のにぎわいが去ったあとに現れる。
昼の喧騒が落ち着いたころ、
潮だまりの縁でひっそりと貝をついばむ。

その姿に、
人はどこか懐かしさを覚える。
海の音が遠くで響くたび、
この小さな命もまた、
誰かの記憶を運んでいるように見える。


🌕 象徴 ― 風のあとに残るもの
荒波の章が終わり、
海は静寂を取り戻す。

ヒライソガニは、
その静けさの中を歩く。
もう風はない。
けれど、風が吹いていたという記憶だけが、
岩に、潮に、彼らの体に残っている。

静かな海の底にも、
風の名残は生きている。
彼らの動きはそれを確かめるように、
ゆっくりと、確かに続いていく。

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