森は、無数の糸でつながっている。
木々の根のまわりには、
白い糸のようなものが無数に伸びている。
それは根ではなく、菌糸——きのこの“本体”だ。
森の木ときのこは、敵でも味方でもない。
菌糸は木の根に寄り添い、水や栄養をやりとりしながら、
互いの命を支えている。
木は光で作った糖を渡し、菌は地中のミネラルを返す。
森はその見えない取引の上に立っている。
一本の木の下にだけ、菌は生きていない。
菌糸は地中で網のように広がり、
数十メートル先の木ともつながっている。
一本の糸が森を巡り、情報を運び、
ときに警告を伝え、ときに水分を分け合う。
この網のような世界を、人は“ウッド・ワイド・ウェブ”と呼ぶ。
きのこは、その通信網の果てに咲く花。
見えるのはわずかな一瞬、
けれど、その下では森全体が語り合っている。
足も声も持たない菌たちは、
それでも森の会話を続けている。
光の届かぬ暗がりで、
「生きる」という言葉を、土の中で交わしながら。

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