見えないところで、森は息をしている。
森の地面は、静かに呼吸している。
落ち葉が重なり、雨が染み込み、時間が沈む。
その下で、細く白い糸が網のように広がっている。
それが、きのこたちの本当の姿——菌糸。
木が倒れても、森は終わらない。
倒木を包み、葉を分解し、命の残りを吸い取って新しい養分へと変えていく。
森の底で働くその見えない手が、やがて小さな芽を押し上げる。
ある朝、湿った空気のなかに傘がひらく。
人はその一瞬しか見ない。
けれど、森はその背後に何年もの営みを重ねている。
土の中で交わる木と菌、死と再生。
きのこは、森の記憶を形にしたものだ。
私たちが森を歩くとき、足元では何億もの菌糸が絡み合い、
今もゆっくりと、命を混ぜ合わせている。
それを“きのこ”と呼ぶとき、
私たちはほんの表面だけを見ているのかもしれない。

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