🐿️どんぐりを運ぶ動物たち ― 森を育てる種 ―

ドングリと森の動物たち

森の奥で、リスが小さな穴を掘っている。
前足でどんぐりをつかみ、ふかふかの落ち葉をかき分け、そっと埋めていく。
その場所を覚えているようで、覚えていないようでもある。
けれど、それでいい。
リスの“忘れもの”こそが、森の未来をつくっていくのだから。

どんぐりはブナ科の木々の果実。
秋になると木々は一斉に実を落とすが、自ら歩いて広がることはできない。
だから森は、動物たちに運ばせる。
リスやカケス、イノシシ、そしてクマ。
それぞれが生きるためにどんぐりを食べ、
知らぬうちに森を更新している。

カケスは青い羽をひらめかせ、森の外れまで飛んでいく。
くちばしにくわえたどんぐりを土の下に隠し、
何百もの場所を覚えようとする。
けれど冬が来る頃には、いくつかの場所を忘れてしまう。
その忘れられた実が、春に芽を出し、新しい木になる。
森は“記憶”ではなく、“忘却”によっても育っていくのだ。

イノシシは別の意味で森を耕す。
地面を掘り返してどんぐりを探し、
食べ残した皮やかけらが、やがて土に還る。
その足跡のあとには、柔らかく混ざった土ができ、
次の芽が伸びやすくなる。
彼らの荒々しい掘り返しは、森にとっての“耕運”なのだ。

そして、クマ。
冬を前にした森で、クマは静かにどんぐりを探す。
体に脂肪を蓄えるために、森の奥を歩きながら、
ひとつ、またひとつと実を噛みしめる。
それは、生きるための食であり、
森が与える“最後の贈りもの”でもある。

どんぐりを食べ、運び、埋め、忘れ、土へ返す。
それぞれの動物が、意識せずに森の営みに加わっている。
ひとつの実を通して、命がつながり、森が呼吸を続ける。

秋の終わり、風の冷たさの中でリスがまた走る。
枝の上から落ちたひと粒が、偶然に柔らかな土に触れる。
その偶然こそが、森を育てている。

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