― 冬の空気をやわらげる、香りの果実 ―
生態 ― 山に生きる柑橘
ユズ (Citrus junos) はミカン科ミカン属の常緑低木で、 原産は中国の揚子江上流域。日本には奈良時代以前に伝わり、 冷涼な気候でも実ることから「山の柑橘」として山間の村々に定着した。 樹高は3〜5メートル。枝には鋭いトゲをもち、葉の基部には小さな翼葉がある。 このトゲは動物の食害を防ぐだけでなく、強い風にも耐える支えとなる。
初夏に白い五弁花を咲かせ、秋に果実が黄熟する。 果皮表面には無数の油胞が並び、そこに香りの成分が詰まっている。 主要成分はリモネン、シトラール、γ-テルピネン。 冬の寒さで果皮の水分が減ると精油濃度が上がり、 その香りはいっそう澄んで感じられる。
文化 ― 香りと暮らし
ユズは古くから、日本の生活の中で“香りを使う果実”として重んじられてきた。 冬至の日に湯に浮かべる「柚子湯」は、体を温め邪気を払う風習。 台所では果皮を削って吸い物や鍋に香りを添え、 果汁は酢の代わりに使われてきた。 香りは保存食や調味にも生かされ、 柚子味噌・柚子胡椒・ポン酢などの基礎を形づくってきた。
江戸時代には「薬味柚子」「風呂柚子」と呼ばれ、 明治以降には徳島・高知・愛媛などで地域の名産となる。 特に高知県馬路村のように、 山間地の気候を生かしたユズ栽培は地域産業として根づいた。 果実の香りを生活の中に取り入れる文化が、 日本の季節感そのものをつくってきたといえる。
詩 ― 香りで季節を結ぶ
冬の冷たい空気の中で、ユズの香りは柔らかく漂う。 湯気の立つ台所、軒先の木、山の畑。 どこでも同じ香りが、静かに人の時間をつないでいる。 果実の黄色は、寒さの中の光。 香りは、季節をひとつに結ぶ糸のようだ。
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