🎋 ウナギ10:ニホンウナギ ― 東アジアの川をめぐる代表種 ―

ウナギシリーズ

夏の夜、ぬるんだ川の水の底で、細長い影が静かに身じろぎをする。日本の川や水路、湖の多くにかつて当たり前のようにいたその姿――それがニホンウナギだ。かば焼きとして親しまれてきた身近な魚でありながら、その生まれ故郷は遠い外洋の深い海の中にある。

ニホンウナギはウナギ属の一種(学名:Anguilla japonica)で、東アジアの川や湖を主な成長の場とする。細長い円筒形の体、ぬめりを帯びた皮膚、夜に活動する習性。私たちが川や用水路で見かけてきた「ウナギ」の多くが、この種に当たる。

成長期を日本や台湾、中国沿岸の淡水や汽水で過ごし、成熟すると太平洋の外洋へと旅立つ。川で育ち、海で生まれる降河回遊魚という生き方は、環境の変化に敏感でありながら、長い間この地域の川と海をつなぐ存在であり続けてきた。

■ 基礎情報(ニホンウナギ)

  • 和名:ニホンウナギ
  • 学名:Anguilla japonica
  • 分類:脊索動物門 > 条鰭綱 > ウナギ目(Anguilliformes)> ウナギ科(Anguillidae)> ウナギ属(Anguilla)
  • 分布:日本・韓国・台湾・中国東部など東アジア沿岸の河川・湖・汽水域
  • 生息環境:流れのゆるやかな川・湖・用水路・河口汽水域などの底近く
  • 体長:ふつう 50〜80cm、最大で1mを超える個体もいる
  • 体重:成魚で 0.5〜2kg 程度、環境によってはそれ以上になることも
  • 食性:肉食〜雑食(甲殻類・貝類・小魚・水生昆虫・落下した有機物など)
  • 回遊タイプ:降河回遊(海で産卵・孵化し、淡水で成長して再び海へ戻る)
  • 活動:夜行性、昼は石や穴・護岸の隙間などに潜む
  • 保全状況:絶滅危惧種(日本では絶滅危惧IB類に選定/国際的にも危機的な資源状態)

かつては里山の川や用水路で普通に見られたニホンウナギだが、近年は個体数の減少が問題となっている。身近な川の生き物でありながら、その旅の全貌と現在の状況を知るほどに、「ありふれた魚」ではなかったことが見えてくる。

🎋目次

🐍 1. ニホンウナギとは ― 東アジアに生きるウナギ属の一種

ニホンウナギは、東アジアの河川・湖を主な成長の場とするウナギ属の一種で、日本で「ウナギ」といえば通常この種を指す。

  • 学名:Anguilla japonica(“日本のウナギ”の意味を持つ名)
  • 体形:細長い円筒形で、全身をくねらせて泳ぐ。
  • 体色:背側は黒〜暗褐色、腹側は淡色で、成長段階により色合いが変化する。
  • 生活史:海で生まれ、淡水で育ち、成熟すると再び海へ戻る。

同じウナギ属であるヨーロッパウナギやアメリカウナギとは近縁だが、産卵場や回遊経路、分布域が異なる。

🌏 2. 分布と生息環境 ― 日本の川・湖・水路で見られる姿

ニホンウナギは、日本列島の広い範囲の河川や湖に分布し、韓国・台湾・中国東部など東アジア各地の淡水域でも見られる。成長期には、人の暮らしに近い水辺にもよく姿を現す。

  • 分布域:日本、朝鮮半島、台湾、中国東部沿岸の河川・湖沼・汽水域。
  • 好む環境:流れの緩やかな川底、湖底、用水路の深み、河口周辺の汽水域。
  • 隠れ場所:石の下、護岸の隙間、倒木の陰、葦の根元など。
  • 都市近郊:かつては都市部の川や農村の水路にも普通に見られた。

人の生活圏と重なる場所に生息することが多く、「身近な川の生き物」として記憶されてきた。

🌊 3. 生活史と回遊 ― 外洋で生まれ川で育つ降河回遊魚

ニホンウナギの生活史は、一般的な淡水魚とは大きく異なる。産卵の場は日本からはるか南東の外洋であり、その幼生は長い距離を海流に乗って移動してくる。

  • 産卵場:フィリピン海プレート付近の外洋深部にあるとされる。
  • 幼生期:レプトケファルスとして外洋を漂い、やがてシラスウナギへ変態。
  • 遡上:シラスウナギとして日本や東アジア沿岸の河口に到達し、淡水へ入る。
  • 淡水成長期:川や湖で数年〜十数年を過ごし、クロコから成魚へ。
  • 降海と繁殖:成熟すると銀化し、外洋の産卵場へ向かい、そこで生涯を終える。

この長い往復の旅は、海と川というまったく異なる環境を利用する高度な生き方でもある。

🏘️ 4. 人との関わりと現在 ― 食文化と絶滅危惧という二つの顔

ニホンウナギは、日本の食文化の中で特別な位置を占めてきた。かば焼きやうな重、ひつまぶしなど、多くの料理がこの一種を前提に発達してきたと言ってよい。

  • 食文化:土用の丑の日など、季節の行事とも結びついた料理として親しまれてきた。
  • 養殖との関係:現在流通する多くのウナギは養殖だが、その多くは天然のシラスウナギに依存している。
  • 資源の危機:個体数の減少が問題となり、絶滅危惧種として指定されている。
  • 保全の動き:河川環境の改善、漁獲規制、完全養殖研究などの取り組みが進められている。

「身近な川の魚」であり「高級食材」であり、同時に「守るべき絶滅危惧種」でもある――ニホンウナギは、いくつもの顔を持つ存在になっている。

🌙 詩的一行

黒い細い影が、長く続く川の時間と人の記憶をそっとつなぎとめている。

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