環境省が、第67次南極地域観測隊へ職員を同行させると発表した。
この知らせは、一見すると“毎年の恒例行事”のようにも思える。
だがその背景には、いま南極が抱えている深刻な変化がある。
日本が南極に向かう意味は、年々重くなっている。
日本の南極観測は、1956年に始まった。
越冬隊が氷の大陸に基地を築き、空を飛ぶオーロラ、
大陸を覆う氷床、氷の縁に集うペンギンやアザラシたち――
それらを記録してきた長い積み重ねがある。
かつて南極の海氷は「安定した存在」だと思われていた。
しかし近年、観測データはそれを否定する方向へ向かっている。
2023〜2024年の海氷面積は観測史上で最小レベルを記録し、
とりわけ冬の氷が戻らない現象が続いている。
海氷が減るということは、
氷の下でプランクトンを食べるオキアミが減り、
そのオキアミを食べるペンギン、アザラシ、クジラへと
連鎖的な影響が広がることを意味する。
例えば、近年の観測では、
コウテイペンギンの繁殖地のいくつかが
“海氷崩壊により雛が全滅”という事例を記録している。
氷の世界で生きる生き物にとって、氷は住まいであり保育所だ。
氷が消えれば、世代そのものが失われる。
こうした変化を捉えるため、南極観測隊には
大気・海洋・生態系の専門家たちが参加してきた。
今回の環境省職員の同行は、
生物多様性と気候の双方を読み解くための“目”を
より強化する意図がある。
南極は遠い世界だが、私たちの生活と無縁ではない。
海氷が溶ければ海流は変わる。
南極の冷水が生み出す海の循環が弱まれば、
魚の分布、海藻の成長、日本沿岸の生態系にも影響する。
日本の観測隊は、“地球規模の変化”の最前線に立っている。
その観測データは、国内の保全政策にも直結する。
海鳥の動向、海水温のゆらぎ、沿岸の魚種の変化――
そのすべてに、南極の変化が影を落としているのだ。
氷点下の風が吹く大陸を前に、
観測隊は今年も静かに準備を進めている。
氷の縁で生き物たちがどう暮らしているのか、
そして地球の循環がどこへ向かっているのか。
その問いに答えを出すために。
🌏 せいかつ生き物図鑑・国内編
― 日本から見る“地球のはしっこ”の自然記録 ―出典:環境省報道発表(2025年11月10日)/南極観測隊資料/各年次観測レポート
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