海が静かに冷えはじめるとき、
北の港に、冬の知らせが届く。
その合図が――カニの解禁だ。
11月6日、全国の日本海側の港でズワイガニ漁が一斉に始まった。
石川の「加能ガニ」、福井の「越前ガニ」、鳥取・兵庫の「松葉ガニ」。
それぞれの名を冠したブランドガニが、夜の海から戻ってくる。
船の灯が港に並ぶと、冬の景色が始まる。
漁期はおよそ5か月。
オスのズワイガニは翌年3月まで、
メス(香箱ガニ・セコガニ)は12月末までと限られている。
短い季節に凝縮された命のリズムを、
人は「旬」と呼んで味わう。
解禁という言葉の裏には、
“待つ”という時間がある。
海の中でカニたちが脱皮を繰り返し、
再び人の網にかかるまでの数か月。
その循環のリズムを、人も自然も覚えている。
漁は荒れた冬の海とともにあり、
海の底では冷たい潮が流れている。
深場を歩くカニの動きはゆっくりで、
その一歩ごとに、季節が進んでいくようだ。
市場に並ぶと、カニはもう“食材”として見られる。
けれど、その殻の赤の奥には、
海で生きていた時間の重さが宿っている。
自然と人のあいだをつなぐ命の色。
それが冬を告げる“海の灯り”なのかもしれない。
🌏 せいかつ生き物図鑑・国内編
― 季節のいきものと暮らしをめぐる観察記 ―
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