🏞 地方10:静かな羽音 ― 鳥インフルエンザと生きものの距離(2025年11月上旬)

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静かな羽音 ― 鳥インフルエンザと生きものの距離(2025年11月上旬)

朝の空気が冷たくなるころ、ニュースの隅に小さな見出しが並んだ。
「養鶏場で鳥インフルエンザ確認」――。
それは毎年のように繰り返される言葉だが、
その一文の裏で、どれほどの命が静かに処分されているのかを、
私たちはほとんど知らない。

2025年11月初旬、九州と関東の養鶏場で高病原性鳥インフルエンザが確認された。
採卵用のニワトリ群が殺処分され、周辺では移動制限が敷かれている。
感染源は野鳥とみられ、渡りの季節に合わせて警戒が強まっている。

ウイルスは目に見えない。
だがそれは、冬の風とともに空を越え、川を渡り、
人の作った鶏舎にも忍び込む。
自然のサイクルと人の経済が、もっとも脆く交わるところに、
この問題は潜んでいる。

感染の広がりを防ぐため、感染個体はすべて処分される。
その判断に迷いはない。
けれど、生命を「感染源」と呼ぶ瞬間に、
人は自然からどれほど距離を取ってしまったのだろう。

もともと鳥たちは、季節とともに生きてきた。
ウイルスもまた、長い時間の中で進化してきた。
私たちはその循環の中に立っているはずなのに、
いつしかその一部を切り離して“管理”と呼ぶようになった。

自然を制御しようとするほど、
その境界線があやふやになっていく。
ウイルスと生きもの、野生と家畜、自然と人。
それらを分ける線は、本当はとても薄い。

夜明け前、鶏舎のあたりにうっすらと霧が立つ。
遠くで鳴くカモの声が響く。
その声の中に、まだ見えない“次の季節”が含まれている。
それでも、生きものたちは空を渡り続けている。

🌏 せいかつ生き物図鑑・国内編
― 変わりゆく日常と自然のあいだ ―

出典:環境省/農林水産省/FNN/共同通信/日本経済新聞

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