🌳シイカシ15:森を包む空気 ― 香りと湿りの記憶 ―

シイカシシリーズ

南の森を歩くと、空気がやわらかい。
どこからともなく甘く、青い香りがする。
葉や木の皮、雨や土。
それらすべてが混ざりあって、森の空気をつくっている。


🌿 香る森

照葉樹の葉は、樹脂をふくむ。
その成分が日差しや雨でほどけ、
空気に漂っていく。
それが、フィトンチッド――
森の“呼吸”ともいえる香気。

この香りには、
虫を遠ざけ、菌の繁殖を抑える力がある。
森は自分を守るために、
香りで世界と交わっているのだ。


🍃 湿りの記憶

南の森では、湿りが香りを運ぶ。
雨上がりには土の匂いが濃くなり、
風が止むと、木の香が沈む。
湿度が高いほど、香りは長く残る。

その空気の重たさが、
南の森らしさでもある。
それは不快な重さではなく、
命を溶かし合う濃さだ。


💧 人の記憶にある森

昔の人々は、この香りを知っていた。
炭焼きの煙、濡れた薪の匂い、
木の家にしみついた甘い樹脂の香り。
シイやカシの森の空気は、
人の暮らしの中にも息づいていた。

今も森に入れば、
その記憶がかすかに残っている。


🌙 詩的一行

香りは、森が語ることば。

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