南の森を歩くと、空気がやわらかい。
どこからともなく甘く、青い香りがする。
葉や木の皮、雨や土。
それらすべてが混ざりあって、森の空気をつくっている。
🌿 香る森
照葉樹の葉は、樹脂をふくむ。
その成分が日差しや雨でほどけ、
空気に漂っていく。
それが、フィトンチッド――
森の“呼吸”ともいえる香気。
この香りには、
虫を遠ざけ、菌の繁殖を抑える力がある。
森は自分を守るために、
香りで世界と交わっているのだ。
🍃 湿りの記憶
南の森では、湿りが香りを運ぶ。
雨上がりには土の匂いが濃くなり、
風が止むと、木の香が沈む。
湿度が高いほど、香りは長く残る。
その空気の重たさが、
南の森らしさでもある。
それは不快な重さではなく、
命を溶かし合う濃さだ。
💧 人の記憶にある森
昔の人々は、この香りを知っていた。
炭焼きの煙、濡れた薪の匂い、
木の家にしみついた甘い樹脂の香り。
シイやカシの森の空気は、
人の暮らしの中にも息づいていた。
今も森に入れば、
その記憶がかすかに残っている。
🌙 詩的一行
香りは、森が語ることば。
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