🌳シイカシ1：森に冬のない木 ― 常緑という時間 ―

北の森が葉を落とすころ、
南の森は、静かにそのまま立っている。
冬という季節が通りすぎても、
そこには光を抱いたままの木がある。

🌱 姿 ― 緑を保つ力

シイやカシの葉は、厚く、硬く、光をよく反射する。
寒さにも乾きにも耐えるようにつくられた、革のような葉。
葉脈は深く、裏には銀のうぶ毛があり、
日射と水分を調節しながら、一年中光を受けている。

冬でも森は暗くならず、
重なり合う葉の間に、ゆるやかな陰をつくる。
それは「光をためる森」――
照葉樹林と呼ばれる世界の始まりだ。

常緑の木は、休むことを知らない。
古い葉を落とすのは、新しい葉が生まれる瞬間。
季節の境目で、森全体が息を引き継ぐように変わっていく。

葉は二年を生き、枝の先で世代交代する。
それは循環ではなく、連続。
森の時間は切れ目がなく、
一年をゆるやかに滑るように進む。

シイ・カシの森は、古くから人の暮らしを支えてきた。
薪や炭、柱、器、そして祈りの木。
温かく湿った土地に根を張り、
海辺から山まで、どこにでもその姿がある。

常緑の木々は、失われにくい記憶の森だ。
落葉樹の森が「再生の象徴」なら、
常緑の森は「持続の記憶」そのもの。

冬を知らない森が、光を守っている。