森に戻った影

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森に戻った影
― 100年ぶりに確認された、アメリカの“fisher” ―(2025年12月)

雪のない森の奥。
カメラトラップの前を、
ひとつの影が横切った。

それは、
オハイオ州で100年以上確認されていなかった哺乳類、
フィッシャー(fisher, Pekania pennanti)だった。

人の目から消えていた生き物が、
再び記録された。

■ かつて「いなくなった」とされた動物

フィッシャーは、
イタチ科の中型肉食哺乳類で、
北米の森林に広く分布していた。

だが19〜20世紀初頭、
毛皮目的の狩猟と森林伐採により、
オハイオ州では姿を消したと考えられてきた。

記録上、
最後の確認から、
1世紀以上が経っていた。

■ 再導入ではない「自然な再出現」

今回確認された個体は、
再導入されたものではない。

研究者や保全当局は、
周辺州から自然に分散してきた可能性が高いと見ている。

これは、
単なる偶然ではなく、
長期的な環境変化の結果だ。

■ 森がつながった、という事実

フィッシャーが戻れた背景には、
いくつかの要因がある。

森林伐採の減少。
土地利用の変化。
狩猟規制と法的保護。

それらが積み重なり、
分断されていた森が、ゆっくりと再びつながった

フィッシャーは、
その隙間を渡ってきた。

■ 「戻った」のではなく、「戻れるようになった」

この出来事は、
しばしば「回復の成功例」として語られる。

だが重要なのは、
動物が戻されたわけではないという点だ。

人が環境を変え、
その結果、
戻れる条件が整った。

フィッシャーは、
ただそこを通っただけだった。

■ 日本の森とも、無関係ではない

日本でも、
ニホンカモシカやツキノワグマなど、
かつて減った動物が再び姿を見せている。

それは、
人と自然の距離が、
少しずつ変わった結果だ。

フィッシャーの再出現は、
「いなくなった生き物は、永遠に消えるわけではない」
という事実を、
静かに示している。

■ 記録されるまで、存在しなかったわけではない

100年ぶりに撮影された一枚は、
突然の奇跡ではない。

見えない場所で、
細く続いていた道が、
ようやく交差しただけだ。

森の奥で、
影は、
何事もなかったかのように歩き去っていった。

🌍 せいかつ生き物図鑑・世界編
― 消えたと思われた森のつながり ―

出典:米国州当局・研究者によるカメラトラップ記録/報道(2025年)

🌎前回の記事→ 光にさらされた小さな宇宙― 写真を撮られることで消えていく、インドの“銀河カエル” ―

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