草原の跳ね鳥が追い出される日

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草原の跳ね鳥が追い出される日
― インド・Lesser Florican の聖域が「3分の1」に縮小(12月5日)

インド・中央部マディヤプラデシュ州。
モンスーンの季節になると、草原の上で小さな鳥が高く跳ね上がる。
その名は Lesser Florican(レッサーフロリカン)
現地では「カーマル(Kharmor)」とも呼ばれる、絶滅危惧の草原の鳥だ。

2025年、その鳥を守るはずの「聖域」が、
政府の決定によって一気に 3分の1 ほどの面積に縮められた

■ Kharmor Sanctuary、保護区が 348平方km から 132平方km に

マディヤプラデシュ州ダール地区の Kharmor Sanctuary は、
レッサーフロリカンの重要な繁殖地として1980年代に指定された草原保護区だ。

しかし2025年の政府通知で、
保護区は 348.12平方km から 132.83平方kmへと大きく縮小され、
保護の枠から外れた土地は、
宅地・道路・鉄道などの開発が可能なエリアとなった。

保護区から外された14の村では、
22年間続いた土地利用の制限がなくなり、
農地売買や建設が一気に進むとみられている。

■ 「かつては数千羽、いまは千羽未満」――消えゆく草原の象徴

レッサーフロリカンは、
胸を張って何度もジャンプしながら求愛する独特の行動で知られる、
バスター科の小型の鳥だ。

かつてインドのモンスーン草原一帯に広く分布していたが、
草地が耕作地や開発に変わるなかで急減し、
成鳥数は現在 1000羽未満 と推定されている。

とくにマディヤプラデシュやラジャスタンでは、
主要な繁殖地の多くが消失、もしくは分断され、
「ほとんど姿を見なくなった」という報告も出ている。

■ 村に戻った自由と、草原から失われる静けさ

保護区縮小の決定には、
地元住民の生活のしづらさが背景にある。

長年、保護区内の村では、
土地の売買や建物の新築が厳しく制限されてきた。
「土地はあるのに自由に使えない」という不満は根強く、
インフラ整備が進まないことへの不満も積み重なっていた。

今回の縮小は、そうした人々にとっては、
生活の自由を取り戻す決定でもある。

一方で、保護区から外された草原は、
道路や鉄道、宅地と引き換えに、
レッサーフロリカンにとっては帰る場所を失うことを意味する。

■ 残された草原で、何ができるのか

今後、森林局は縮小後のエリア内で、
より「科学的な保全」を進めると説明している。

残された草原をどう管理するのか。
農地との共存、放牧との折り合い、外来植物の除去――。
やるべきことは山ほどある。

そして何より、
「鳥のため」だけでなく「人の暮らしのため」にも草原は必要だ
という実感を育てていくことが求められる。

モンスーンの夕暮れ、草原に雨が戻るたび、
あの小さな鳥がもう一度跳ね上がる未来を、
私たちはまだ諦めたくない。

🌍 せいかつ生き物図鑑・世界編
― 消えゆく草原と鳥の物語 ―

出典:The Times of India “Kharmor sanctuary lose over two-thirds of its protected area”(2025年)/BirdLife International データ ほか

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