地球の陸地の60%が「生態的安全圏」を超えた
― 人間活動が押し広げた“限界線”という警告(2025年11月)
人間が生きるためにも、自然が循環を保つためにも、
「これ以上はこわしてはいけない」という境界がある。
それが生態系の“安全圏(safe ecological limits)”だ。
2025年に発表された国際研究により、
その安全圏をすでに地球の60%の陸地が超えてしまったことが明らかになった。
水、土、森、草原、生きもの―― 生命を支える仕組みの多くが、限界ラインの向こう側にある。
■ 生態的安全圏とは何か ― 自然が「壊れずに回る」ための境界
生態的安全圏とは、自然が本来の回復力と機能を保ち、
水循環・土壌形成・炭素吸収・生物多様性などが損なわれない状態を指す。
今回の分析では、衛星観測データ・土地利用変化・生態系モデルを統合し、
世界196か国の陸域を評価。その結果――
◆ 地球の陸地の約60%が、安全圏(safe limits)をすでに突破
特に深刻だったのは:
- 森林の劣化・断片化
- 農地の過度な拡大
- 河川・湿地の消失
- 原生自然地域の急減少
といった、人間活動による“空間の圧迫”。
■ もっとも限界を越えている地域 ― アフリカ・南アジア・南米の一部
分析によれば、森林伐採や農地拡大が急速に進む地域では、
自然が持つ「自己回復力」が追いつかず、
本来なら数十年かかる回復が、今は不可能に近い速度で奪われている。
特に:
- アフリカ中央部の熱帯林帯
- 南アジアの農業集中地域
- アマゾン南縁(マトグロッソ周辺)
- 中東・中央アジアの乾燥地帯
などで“限界超え”が顕著に。
これは単なる環境問題ではなく、
水源の涸渇、砂漠化、土壌劣化、食料生産の不安定化――
人間の暮らしの基盤そのものが危ういという警告でもある。
■ 限界を越えるとどうなる? ― “戻らない変化” が始まる
自然には本来、強い回復力がある。 しかし、破壊が安全圏を越えると、次のような“非線形の変化”が起こる。
- 森が一度乾きはじめると、湿潤林に戻らなくなる
- 河川が断片化すると、生態系が崩れ落ちる
- 土壌が劣化すると、肥沃さの回復に数百年かかる
- 生物多様性の喪失は連鎖する
つまり、安全圏の“外側”に入ってしまうと、 自然はこれまでのように戻らない。
■ なぜここまで? ― 人間活動の「地図の塗りつぶし」
研究者は、自然が失われている最大の理由を、 「土地の使いすぎ」と結論づけている。
- 農地・牧草地が広がりすぎた
- 都市化が加速し、川と湿地が失われた
- 森林伐採と道路建設が、生態系を細切れにした
地図の上から、自然の緑がゆっくりと塗りつぶされ、 グレーの面積だけが増えていく―― そんな“静かな変化”が、地球規模で積み重なった結果だ。
■ 研究者の言葉 ― 「警告ではなく、現在進行形の現実」
今回の報告は、未来の予測ではない。 すでに“今この瞬間の状態”を地球レベルで可視化したものだ。
研究を率いた生態学者たちはこう述べている:
「生態的安全圏を超えた地域は、 人間と自然のどちらにとっても『危険域(danger zone)』だ。 これは未来の話ではなく、すでに進行している現実である。」
夜の地球を俯瞰すれば、光の広がりが都市の形を描く。 しかし昼の地球では、失われた緑の跡が静かに広がっている。
その“消えた緑の面積”が、ついに地球の6割に達した。
🌍 せいかつ生き物図鑑・世界編
― 変わりゆく地球を見つめる観察記 ―出典:国際生態系評価研究(2025)/各国環境研究機関レポートより
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