森を飛ぶオオコウモリから見つかった新しいウイルス
― オーストラリアで報告された「Salt Gully virus」(2025年)
オーストラリア東部・クイーンズランド州で暮らすオオコウモリたちから、
これまで知られていなかった新しいウイルスが見つかった。
報告したのは、豪州連邦科学産業研究機構(CSIRO)などの研究チームだ。
■ 「Salt Gully virus」という名の新種ヘニパウイルス
研究チームは、フルーツバットとして知られるPteropus(オオコウモリ)属の尿から、
これまで記録のなかったヘニパウイルスの一種を分離した。
新ウイルスは「Salt Gully virus(ソルトガリーウイルス)」と名づけられ、
既知のヘニパウイルスとは性質の一部が異なることが示されている。
ヘニパウイルスは、ニパウイルスやヘンドラウイルスの仲間として知られ、
人や家畜で重い症状を起こす種類もあるが、
Salt Gully virus については人への影響はまだ不明とされている。
■ 絶滅危惧のオオコウモリとウイルス多様性
今回ウイルスが見つかったオオコウモリの仲間は、
森の果実を食べ、種子を遠くまで運ぶことで、
森林再生を支える重要な存在とされる一方、
生息地の減少や迫害によって絶滅危惧種となっている集団も多い。
生息地が狭まり、個体数が減ると、
群れの中で広がる感染症への耐性も弱くなりやすい。
今回の発見は、人へのリスクというよりも、
オオコウモリ自身の健康や保全を考えるうえで無視できないサインでもある。
■ 森の上を飛ぶ影と、見えない世界
研究者たちは、Salt Gully virus の性質や分布をこれから詳しく調べていく予定だ。
どの地域の群れに多いのか、人や家畜に移る可能性はどの程度か――。
その答えはまだ出ていない。
夕暮れどき、森の上空を静かに横切っていくオオコウモリの群れ。
その翼の内側には、森を再生させる力と、
まだ名前もよく知られていないウイルスたちの世界が同時に息づいている。
🌍 せいかつ生き物図鑑・世界編
― 変わりゆく地球を見つめる観察記 ―出典:Emerging Infectious Diseases(Salt Gully virus 報告論文, 2025年)/CSIROプレスリリース
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