白い雑草を食べる者 ― ニュージーランドで見つかった逆転のゾウムシ(2025年11月)

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草原の片隅で、外来の白い花が風に揺れる。
その葉の裏に、小さな影がいた。
名はまだない――Clypeolus 属の新種ゾウムシ。
そして彼が食べていたのは、外来雑草「ホワイト・ホアハウンド(Marrubium vulgare)」。

ニュージーランド南島で見つかったこの虫は、
これまで同属では100年ぶりの新種報告となる。
研究チームが詳しく観察したところ、
このゾウムシは侵入植物の茎や葉を食害し、繁殖していたという。

ホワイト・ホアハウンドはヨーロッパ原産の植物で、
放牧地を覆い、在来植物を圧迫する厄介者として知られていた。
だが、今回の発見はその構図を静かに覆す。
外来種を糧に生きる“在来の昆虫”――
自然の中では、思いがけない形で均衡が保たれているのだ。

論文では、
この関係を「在来昆虫による自然の抑制機構の一例」と位置づけている。
外来植物が広がれば、その陰で新たな食の関係が生まれる。
環境の変化に、命が柔らかく対応していく。
それは、自然のしたたかさそのものだ。

ニュージーランドの草原に吹く風は、今日も静かだ。
その中で、小さなゾウムシたちは、
誰に知られることもなく“白い草”を食べ続けている。

🌏 せいかつ生き物図鑑・世界編
― 変わりゆく地球を見つめる観察記 ―

出典:Zootaxa Vol. 5717 No. 4(2025年11月7日)/New Zealand Arthropod Collection/Landcare Research

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