🌍 世界1:ヨーロッパウナギ ― 海を渡る影

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密輸の闇と、流れ続ける命の記憶

ひとつの川が、いま閉じようとしている。
その水底を、銀色の影が静かに過ぎていく。

ヨーロッパで絶滅危惧に指定されているヨーロッパウナギが、
アジア向けに大規模な密輸の対象となっていることが報じられた。
欧州メディアによると、取引額は年間25億ユーロ――
「ヨーロッパ最大の野生動物犯罪」とも呼ばれる規模だという。
成魚も稚魚も違法に捕獲され、
冷凍や養殖の名のもとに輸出されていく。

ヨーロッパウナギは、
大西洋のサルガッソー海で生まれ、川を遡り、
そして再び海へ帰る。
何千キロにも及ぶ旅を重ねるその生態は、
古来「命の巡礼」とも呼ばれてきた。
だがいま、その道を塞いでいるのは、
ダムでも天敵でもなく、人の流通網と欲望だ。
禁輸措置が取られても、密輸は止まらない。
金属の箱と書類の中で、命は数に置き換えられていく。

それでも、彼らは海を渡ろうとする。
光を失った川を抜け、
見えない潮流を探し続ける。
人の都合に切り取られながらも、
水の記憶はまだそこにある。

その一尾を口にするわたしたちは、
ほんの少しだけ、遠い海の記憶を思い出すべきなのだろう。

🌏 せいかつ生き物図鑑・世界編
― 海を渡る命を見つめる観察記 ―

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