🐒サル9:テナガザル ― 歌う森のアクロバット ―

サルシリーズ

  • 分類: 哺乳綱 サル目 テナガザル科
  • 学名: Hylobatidae(テナガザル科の総称)
  • 分布: 東南アジアの熱帯雨林(インド東北部~マレー半島・スマトラ・ボルネオなど)
  • 体長: 約45–65cm(尾はほとんどない)
  • 体重: 約5–7kg
  • 食性: 主に果実・葉・花・若芽などを食べる雑食傾向
  • 社会: つがいと子どもからなる小さな家族群
  • 特色: 非常に長い腕/樹上でのブラキエーション(腕渡り)/ペアの歌うデュエット

― 朝の森の上の方から、澄んだ声が重なって聞こえてくる。
それはテナガザルの“歌”だ。つがいが交互に、あるいは重なり合いながら歌い、森の空へ自分たちの縄張りを描くように響かせている。枝から枝へ飛び移るときの動きは、まるで宙を舞うアクロバットのようだ。

ここでは、テナガザルの身体の特徴、歌う行動、家族単位の社会、そして森のてっぺんで生きる暮らしを見ていく。サルの中でも特に「樹上生活」に特化した彼らの姿は、森という環境が生き物の形をどう変えるのかを教えてくれる。

🐒目次

🙌 1. 体の特徴 ― 長い腕と樹上アクロバット

テナガザルのいちばんの特徴は、その名の通りとても長い腕だ。
腕の長さは体長よりも長く、枝から枝へとぶら下がりながら移動する「ブラキエーション」に特化している。

  • 長い腕: 一振りで大きく距離を稼げる構造
  • 鉤状の手: 枝を引っかけるようにつかむ形
  • 短い脚と尾: 尾はほとんどなく、上半身中心で移動

樹冠を高速で移動できるこの身体は、捕食者から逃れ、効率よく食べ物を探すための“森仕様”のデザインと言える。

🎵 2. 歌う声 ― デュエットで描く縄張り

テナガザルは美しい歌声でも知られている。
つがいのオスとメスがペアで歌う「デュエット」は、縄張りを示し、絆を確かめる大切な行動だ。

  • デュエット: 決まったフレーズを掛け合いのように歌う
  • 縄張り表示: 周囲の群れに自分たちのエリアを知らせる
  • 個体・ペアごとの違い: 地域やペアごとに歌い方に差があるとされる

森の朝や夕方、樹冠から響く歌は、テナガザルの「ここで生きている」という声そのものだ。

👨‍👩‍👧 3. つがいと家族 ― 小さなユニットで生きる

多くのサルが大きな群れで暮らすのに対し、テナガザルはつがいと子どもからなる小さな家族群で暮らす。

  • 一夫一妻制: オス・メスのペアが長くつながり続けることが多い
  • なわばり型: 家族単位で縄張りを持ち、他のテナガザルと距離をとる
  • 子どもの独立: 成長した子は親の縄張りを離れ、自分の生活圏を探す

この小さなユニット構造が、デュエットや縄張り行動と結びついている。

🌳 4. 森のてっぺんで暮らす ― 生息環境と保全

テナガザルは、主に熱帯雨林の樹冠部でくらす。
地上に降りることはあまりなく、森の上層を行き来する生活に強く依存している。

  • 生息環境: 高木が連続する森林が必要
  • 脅威: 森林伐採・生息地の分断・ペット目的の捕獲
  • 保全: 保護区の設定・違法取引の規制が重要

森のてっぺんに暮らす彼らを守ることは、森そのものを守ることにもつながる。

🌙 詩的一行

枝から枝へひと跳びするたび、細い歌声が静かに森の空へほどけていく。

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