🐟鮭6:北の海 ― 回遊のはじまり ―

サケシリーズ

― 光の道を泳ぐ魚たち ―

朝の海は、まだ冷たい。
川を下ったばかりの若い鮭たちは、
塩の匂いを含んだ水に戸惑いながら、
それでも前へと進んでいく。


🪶目次

  • 🌊 海の入口
  • 🧭 北の海へ
  • 🌤 成長の季節
  • 🌅 海と空のあいだで

🌊 海の入口

潮の流れが、川とはまるで違う。
一方向に進んでいた水が、
いまは満ち引きし、波を立てる。
鮭たちは群れを組み、
目に見えない境界を越えていく。

光の角度が変わるたび、
銀の体が一斉にきらめいた。
その反射は、まるで海の中に
小さな星座が生まれるようだった。

この瞬間、彼らはもう“川の魚”ではない。
海の中で息をし、塩を受け入れ、
新しい世界の一部になる。


🧭 北の海へ

やがて鮭たちは流れに乗り、北へ向かう。
そこには餌の豊かな海が広がり、
氷の粒のように冷たい潮が流れている。

日が長くなり、光が柔らかくなるころ、
群れは海の奥へと進んでいく。
風は静かで、波は大きく、
そして海は限りなく広い。

彼らは地図を持たない。
けれど潮の温度、月の高さ、
水の匂いを感じ取りながら、
まるで何かに導かれるように進んでいく。


🌤 成長の季節

北の海での時間は長い。
夏が過ぎ、秋が訪れるころ、
鮭たちは力強く成長していく。
体は太く、筋肉はしなやかに、
鱗は鋭い光を帯びる。

彼らは群れを保ちつつも、
ときに離れ、ときに戻る。
流れの中で泳ぐこと、
それ自体が生きること。
そこには競争も、恐れもなく、
ただ自然のリズムに溶けていく静けさがある。

クジラが遠くで歌い、
カモメの影が水面を横切る。
そのすべてが、命の一部として響き合う。


🌅 海と空のあいだで

ある夕暮れ、海が金色に染まる。
太陽が低くなり、
空と水の境が曖昧になる。

鮭の群れはその光の中を進む。
波の間をすり抜けるように、
一つひとつの体が、
水と一緒に呼吸しているようだった。

人の目には見えないが、
このとき彼らの体の奥では、
すでに“帰る”準備が始まっている。
命の中に刻まれた水の記憶が、
静かに目を覚まそうとしているのだ。


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