― 光と深みのあいだで ―
海は、時間をゆっくりと伸ばす。
朝と夜の境が溶け、
魚たちはただ、漂いながら成長していく。
鮭もまた、その流れの中で、
生きることの広さを知っていく。
🌊 海という世界
海は、果てが見えない。
川のように岸がなく、ただ上下と奥行きがある。
鮭はその広さの中で、初めて「自分の小ささ」を知る。
けれど同時に、無限の水に包まれている安心もある。
波は規則なく動き、光は時間ごとに姿を変える。
鮭はその変化を恐れず、むしろ流れの一部として身を委ねていく。
🐚 群れの記憶
鮭は群れで生きる。
ひとつの動きが、他の体を導く。
離れれば孤独、近づけば安心。
無数の体が重なり、光の粒となって海を渡る。
群れは家族ではない。
けれど同じ方向に泳ぐことで、
彼らは「ひとつの意志」を共有している。
生き延びるための知恵は、いつのまにか群れの形をしていた。
🌤 光と影のゆらぎ
海の表層では、光が踊る。
波の揺れが反射して、鮭の体に模様を描く。
その光のなかで、彼らは季節を感じている。
光が長く、やわらかくなれば夏。
短く、冷たく沈めば冬。
鮭は言葉を持たないが、光の言葉を読む。
🌌 深みへ
ときに、鮭は深く潜る。
光が届かない静寂の層。
そこでは時間の流れが止まったように感じられる。
音も、色も、何もない。
けれどその闇の中にも、海の鼓動はある。
潮の満ち引き、微かな振動。
それらすべてが生命の呼吸だ。
鮭はそこで、世界の奥行きを覚える。
🌏 巡る命
海には、無数の命がいる。
クラゲが浮かび、サンマが走り、クジラが歌う。
鮭はその中のひとつ。
食べる者であり、食べられる者でもある。
命が命を支え、その連なりが海を成り立たせている。
鮭の体に蓄えられる栄養は、いつか川の森を潤す源にもなる。
生きるとは、つながること。
🌅 帰り道のはじまり
潮の流れが変わる。
風の温度が少し冷たくなるころ、鮭の体の奥に“呼び声”が響きはじめる。
それは遠い川の記憶。
生まれた水の匂いが、海のどこかで再び呼吸を始める。
海での時間は終わらない。
けれど同時に、帰り道が始まる。
命は、円を描くように巡っていく。
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