ネズミは、長いあいだ「恐怖」と結びつけられてきた。暗い路地、汚れた街、突然広がる病。そこに必ず登場する存在として、人々の記憶に刻まれている。
だが、ネズミそのものが恐怖を生み出したわけではない。人の暮らしが密集し、衛生が追いつかなくなったとき、ネズミはその環境に現れただけだ。疫病と恐怖の歴史をたどることは、ネズミを見る人間の側の事情を知ることでもある。
🎐目次
📜 1. 疫病と結びついた存在
歴史の中で、ネズミはたびたび疫病と結びつけられてきた。理由は単純だ。人が病に倒れる場所に、ネズミもいたからである。
中世の都市では、食料の保管や廃棄が不十分で、ネズミが増えやすかった。人とネズミが同じ空間を共有し、結果として病が広がった。その重なりが、「原因」と「存在」を結びつけた。
🦠 2. ペストとネズミの関係
最も強く恐怖と結びついたのが、ペスト(黒死病)である。ペスト菌を媒介したのは、ネズミそのものではなく、ネズミに寄生するノミだった。
この仕組みは長く正確に理解されなかった。目に見えるネズミが、恐怖の象徴として扱われた結果、ネズミ=疫病という図式が固定されていった。
🏙️ 3. 都市と恐怖の記憶
都市化が進むにつれ、人はネズミを「見たくない存在」として排除しようとした。下水、路地、地下。ネズミの生活圏は、人の視界から遠ざけられていく。
それでもネズミは消えなかった。むしろ、見えない場所に追いやられるほど、不安と恐怖の象徴として語られるようになった。
🔎 4. 誤解と現実のあいだ
現代では、疫病対策の多くはネズミの排除ではなく、衛生環境の改善によって行われている。恐怖の多くは、知識の不足から生まれてきた。
ネズミは病を「運ぶ存在」として語られることが多いが、その背景には、常に人の暮らしの歪みがある。ネズミは、その結果を引き受けてきた存在でもある。
🌙 詩的一行
恐怖の名で呼ばれたその影は、人の暮らしの裏側に立っていた。
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