🍊ミカン16：冬の果実文化 ― 家と台所の時間 ―

― 冬の部屋の中で、果実は小さな太陽になる ―

🍊目次

冬の家庭の象徴といえば、こたつとミカン。暖房器具が限られていた時代、こたつは家族が集まる中心だった。そこに置かれた果実は、ただの食べ物ではなく、家族の会話とぬくもりを象徴する存在。皮をむく音と香りが、家の中に静かな時間をつくる。一つの果実が、冬の暮らしをやさしく照らしていた。

かつてはミカンが冬の貴重な甘味だった。農家では貯蔵庫や納屋で通風を保ちながら箱に積み、果実の水分を落ち着かせて長く食べられるように工夫した。段ボールや木箱の“箱ミカン”は、戦後から高度経済成長期にかけて冬の贈答品や家庭備蓄として広く普及した。流通の変化は、冬の味覚の記憶と共に進んできた。

冬の果実を食べる時間は、世代を超えて受け継がれている。祖父母の手、親の声、子の笑い。それぞれの世代が同じ動作で皮をむき、小さな房を分け合ってきた。味や香りは変わっても、「冬＝ミカン」という習慣は続いている。その連なりこそが、日本の家庭文化の一部である。

ひと房の甘さに、家族の冬が集まっている。