🌰栗1:栗という存在

クリシリーズ

― 森が育てる秋の実 ―

森の中に、音もなく落ちる実がある。
風が抜け、陽が傾くと、地面に小さな衝撃が響く。
それは終わりではなく、始まりの合図。
栗という名の種が、また新しい森を呼び寄せる。


🌾目次


🌱 殻と実 ― 森の守りと命の形

栗はブナ科の樹木がつくる果実で、厚い殻斗(いが)に包まれて育つ。
その刺だらけの殻は、外敵から実を守る鎧のようなもの。
中にある種子こそが“栗の実”であり、植物の命を未来へ運ぶ核だ。
硬さと柔らかさ、守りと実りがひとつにあるその姿は、
森のバランスを象徴する存在でもある。


🌿 森の時間 ― 動物たちが運ぶ種

秋になると、リスやイノシシ、カケスたちが栗を拾い、森を駆ける。
彼らは食べきれない実を地面に埋め、それが翌春の芽吹きとなる。
動物たちが運ぶ種の記憶が、森の再生を支えてきた。
一本の樹の下には、過去何十年もの“食べ残し”が根を張っている。
森は、動物たちの無意識の営みで更新されていくのだ。


🔥 人と栗 ― 恵みを分け合う暮らし

人もまた、この実と長く関わってきた。
縄文の遺跡からは、焼かれた栗が数多く出土している。
やがてそれは食として、文化として、秋の象徴になった。
炊き込みご飯、菓子、供物。栗は日常と祈りの両方に生きている。
森が実らせ、人が受け取り、また森へ返す――
その循環の中に、かつての「共に生きる」知恵が眠っている。


🌙 詩的一行

栗が落ちる音は、森の心臓が打つ音。


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