― 山が近づき、人が遠ざかる ―
🗂目次
分類:哺乳綱 クマ科
分布:日本全域(北海道〜本州・四国)
主題:熊の出没・人間社会との接触・環境変化
象徴:距離・喪失・再会・再定義
関連語:出没、里山、共存、環境変化、境界
🌾森と町のあいだ
秋の夕方、住宅街の坂道に黒い影が見える。
カラスが鳴き、犬が吠える。
ニュースのテロップには「熊出没」。
けれど、それは突然の出来事ではない。
森と町の境界は、
少しずつ、音もなく崩れていたのだ。
人が山を離れ、木を伐り、
実りの木々が減り、
熊たちは食を求めて下りてくる。
そこには「侵入者」も「被害者」もいない。
ただ、生きる場所を探して歩く者たちがいるだけだ。
🕯変わる山、変わる熊
昔の熊は、人の匂いを恐れた。
だが、いまの熊は違う。
田畑の匂いを覚え、
果樹園の実や生ごみを見つけ、
山よりも町に近づいていく。
山は暑く、木の実は早く枯れ、
川は干上がり、虫の季節も短くなった。
気候のゆらぎは、
熊の食卓を奪い、人の生活圏へ押し寄せている。
自然の変化は、
熊の行動を変え、
人の“安全”という言葉の意味を変えた。
🚧人が忘れた境界
人は、
便利さのために山のふもとまで家を建て、
森を近くに感じながら、
森を見ないように暮らしてきた。
その結果、
「熊が町に出た」と言うニュースが生まれた。
だが、実際には――
町が山に入り込んだのだ。
柵も、ライトも、
線引きのように見えるけれど、
それはもう曖昧な境界線に過ぎない。
🌙それでも共に生きている
夜の森を照らす街灯の下、
一頭の熊が通り過ぎる。
コンビニの明かりの向こう、
誰かがその姿を見つめている。
恐れ、戸惑い、そしてどこかで感じる懐かしさ。
熊は、
この国の自然の“記憶”そのもの。
私たちが山を忘れようとしても、
山のほうが、人を覚えている。
そしていま、
その記憶が静かに町へ戻ってきている。
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