🧫 基礎情報:野生酵母(ブレット・果皮酵母など)
- 分類:Brettanomyces / Dekkera、Hanseniaspora、Pichia、Candida など多系統
- 主な生息:果実表面・樽・森林・土壌・昆虫体表・蔵付き環境
- 特徴:多様な代謝経路/香りの個性が強い/条件によって有益にも問題にもなる
- 香りの傾向:フルーティ系(Hanseniaspora)、スパイシー・レザー様(Brettanomyces)など
- 発酵力:糖利用パターンが多様。ゆっくりだが独自の風味を生む種も。
- 利用:自然発酵ワイン/ランビック/サワービール/発酵食品の複雑味づくり
- 備考:“自然発酵文化”の中心にいる重要な微生物群。
― ぶどうの果皮、木樽の隙間、森の落ち葉、昆虫の体表。 自然界には、培養された酵母とは異なる“野生酵母”が無数に生きている。 香りの個性は強く、時に複雑、時に奔放。 人の想定を超えた風味を生み出すこともあれば、望まない香りを残すこともある。
だがその予測不能さこそ、自然発酵が持つ魅力の核心だ。 ランビックや自然派ワインに感じられる“揺らぎ”や“複雑さ”は、 野生酵母たちの多様な代謝が生み出すもの。 人と自然が半分ずつつくる発酵文化の中で、野生酵母は欠かせない存在になっている。
ここでは、代表的な野生酵母の種類と特徴、香りの方向性、自然発酵における役割、 そして「制御しない発酵」が生み出す奥深さについて見ていく。
🧫目次
- 🌿 1. 野生酵母の種類 ― 多系統が混在する世界
- 🍏 2. 果皮・森林・樽に生きる酵母 ― 自然界での姿
- 🔥 3. 風味の個性 ― フルーティ・スパイシー・レザー様
- 🌪️ 4. 自然発酵のゆらぎ ― 予測不能さが生む複雑味
- 🌙 詩的一行
🌿 1. 野生酵母の種類 ― 多系統が混在する世界
“野生酵母”はひとつの種ではなく、複数の属・複数の系統から構成される。
- Brettanomyces / Dekkera:スパイス・レザー系の香り。自然派ワインやランビックに多い。
- Hanseniaspora:果実香(リンゴ・洋梨)を生む、果皮に多い酵母。
- Pichia:膜を張る性質があるが、少量では個性のある香りも。
- Candida:植物や昆虫に多く、発酵初期の一時的な関与が多い。
これらの酵母が混在し、リレーのように発酵へ関わることで、 自然発酵特有の多層的な味わいが生まれる。
🍏 2. 果皮・森林・樽に生きる酵母 ― 自然界での姿
野生酵母は人工的に培養されたものではなく、 自然界の環境そのものに根づく微生物だ。
- 果皮:熟した果実の糖を利用しやすく、発酵の初期を担う。
- 森林:落ち葉・樹皮など湿り気のある場所で多様な酵母が生息。
- 木樽:古い樽には蔵付きの酵母が定着し続け、独特の香りを生む。
- 昆虫:ショウジョウバエなどが酵母を運び、分布を広げる。
自然界は“酵母のゆりかご”であり、その多様性は人の管理の及ばない広がりを持つ。
🔥 3. 風味の個性 ― フルーティ・スパイシー・レザー様
野生酵母がつくる香りは、培養酵母とは大きく異なる。
- フルーティ:果皮酵母(Hanseniaspora)による爽やかな果実香
- スパイシー:Brettanomyces の生むクローブ・スパイス香
- レザー様・動物的:ブレット特有の複雑・野性的な香り
- 酢酸系:条件が悪いと揮発酸を生むことも
これらの風味は“個性”にも“欠点”にもなり得る。 使い方次第で、自然発酵の深みを支える重要な要素となる。
🌪️ 4. 自然発酵のゆらぎ ― 予測不能さが生む複雑味
野生酵母の最大の特徴は、予測不能なゆらぎを生むことだ。
- 発酵のリレー:初期を果皮酵母が担い、その後セレビシエが主役になる
- 混合生態系:複数の酵母+乳酸菌が同時に動くことも
- 樽ごとに異なる発酵:蔵付き酵母が“樽の人格”をつくる
管理された発酵とは違い、自然発酵は“生き物そのもの”。 野生酵母は、土地・環境・偶然が織りなす複雑味の中心にいる。
🌙 詩的一行
風に運ばれた小さな細胞が、発酵の始まりにそっと息を吹き込む。
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