🦚キジ4：飛翔の美学 ― 風を読む影 ―

― 草むらから突然舞い上がる影。その瞬間に生まれる羽音は、キジという鳥の“生き方”そのものだ。飛ぶためではなく、生きのびるために身につけた美しさが、里山の空気に短く刻まれていく ―

キジの飛翔は、他の鳥のように長い距離を移動するためのものではない。地上で暮らす時間のほうが圧倒的に長いこの鳥にとって、飛ぶという行動は「身を守る術」としての意味が強い。それでも、羽ばたく一瞬には野の光と風が宿り、思いがけない美しさを見せてくれる。

🦚目次

キジは長距離を飛ぶ鳥ではない。代わりに“瞬発力”に特化している。地上から一気に跳び上がり、短距離を力強く羽ばたいて距離を取るのが主な飛び方だ。

美しさというよりは、生存に寄り添った機能の集合体といえる。

キジが飛ぶのは主に「危険を避けるとき」。普段は歩くことで生活を完結させているため、飛翔は最終手段に近い行動だ。

飛び方は、生活の中心があくまで“地表”であることをよく示している。

キジの飛び立ちには特徴的な羽音がある。草むらから突然響く「ドドドッ」という音は、驚かせるのではなく、瞬間的に大きな力を出すためのものだ。

羽音そのものが、キジの飛翔の個性になっている。

キジの飛翔は、その土地の地形と深く結びついている。斜面、畦道、草地――短くても風景を横切るその軌跡には、里山の暮らしが重なる。

飛び方まで“地形の鳥”であることがにじみ出ている。

風を切る一瞬の影が、里山の静けさの中にそっと残る。