― 他者の影に生きる、小さな光 ―
📘 基本情報(図鑑データ)
- 分類:節足動物門 軟甲綱 十脚目 スナガニ科(またはカクレガニ科)
- 学名:Pinnotheres sinensis(代表種)
- 分布:日本各地の浅海〜潮下帯
- 体長:甲幅1〜2cmほど
- 特徴:貝やナマコ、イソギンチャクなどに共生する小型種。透明感のある殻を持つ。
- 食性:寄主の食べ残しや有機物を摂取。
- 生息環境:波打ち際の砂底、または他生物の体内・体表。
- 文化:古くから“宿借り蟹”として知られ、文学や俳句にも登場する。
❄️ 生態 ― 他の命の中で息をする
カクレガニは、
自らの殻を晒すことが少ない。
アサリの貝殻の中、
ナマコの体腔、
イソギンチャクの触手の根もと――
他者の身体の中に、
静かに居場所をつくる。
寄生ではなく、共生。
奪うでもなく、守られるでもない。
ただ、そこに“在る”ことを選ぶ。
波が揺れ、寄主が動くたび、
彼の小さな体もゆっくりと揺れる。
それが、この世界での呼吸のかたち。
⚓ 文化 ― 目に見えぬ友の記録
古い漁師は言う。
「貝を割ると、中に小さなカニがいる。
それは、貝が長く生きてきた証だ」と。
人は彼を“隠れ蟹”と呼んだ。
見えぬところに生きる者への、
小さな敬意がそこにはあった。
俳句や随筆にも時おり現れる。
“宿借る蟹や春の潮”――
名も残さず消える生を、
人はどこかで美しいと感じていた。
🌕 象徴 ― 共にある孤独
誰かと共にいるということは、
同じ場所に身を置くことではない。
カクレガニは、
他者の影のなかに自分の光を持つ。
寄主がいなければ生きられず、
それでも自分の意思で動いている。
“共にある孤独”。
それがこの小さな生き物の名だ。
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