🦀蟹16:ヒシガニ ― 海底を彫る白き手

カニ(海)シリーズ

― 砂の中に白い輪郭がふっと消える。ヒシガニは、海底を“掘って暮らす”カニで、ひし形の甲羅とスコップのような脚を使い、砂の下へ瞬時に潜り込む。外見も動きも独特で、砂底の静かな世界に適応した種だ ―

浅い砂底に多いが、その姿を見つけるのは簡単ではない。砂に潜る力が極めて高く、波がある場所でも素早く隠れることができる。ここではヒシガニの特徴、生態、行動を図鑑的に整理する。

📘 基礎情報

  • 分類:節足動物門 甲殻亜門 十脚目 ヒシガニ科
  • 学名:Matuta planipes(近縁種含む)
  • 分布:本州以南〜南西諸島の砂底・浅海域
  • 生息環境:砂底・浅い内湾・外洋寄りの砂地
  • 大きさ:甲幅3〜5cmほど
  • 食性:貝類・多毛類・小型甲殻類・有機物など
  • 特徴:ひし形の甲羅・スコップ状の前脚・高い潜砂能力

🦀目次

1. 菱形の甲羅と“掘る脚” ― ヒシガニの特徴

ヒシガニは、他のカニとは明らかに違う形をしている。

  • 甲羅が菱形で、鋭い角を持つ形状
  • 前脚(ハサミ)がスコップのように広く湾曲
  • 体色は薄い白〜ベージュで砂に紛れやすい
  • 脚は強く、砂をかく動きが速い

見た目の美しさと機能性が両立した、独特のフォルムが特徴だ。

2. 砂底に特化した暮らし

ヒシガニは、砂底の環境に完全に適応したカニだ。

  • 砂が細かく、柔らかい場所を好む
  • 浅海の砂底を移動しながら生活
  • 潮流の弱い場所で姿が確認しやすい
  • 外洋寄りの砂地にも進出することがある

砂に潜ることが前提の暮らし方で、姿を見られる時間は短い。

3. 掘る・潜る ― 生き抜くための行動

ヒシガニの行動は“掘る・潜る”の二つに集約される。

  • 前脚で砂を左右に払い、体を沈めて潜る
  • 危険を感じると一瞬で砂に消える
  • 夜間の活動が多く、痕跡が砂に残りやすい
  • 餌は砂中・砂上の小動物をつまみ取る

潜砂能力は砂浜のカニの中でもトップクラスだ。

4. 人との関わり ― 観察が難しい“砂底の住人”

ヒシガニは一般の海水浴場ではほぼ見られず、ダイバーや研究者が砂底で観察することが多い。

  • 砂地ダイビングでは“レア種”として人気
  • 砂から出てくる瞬間は観察価値が高い
  • 漁との関わりは少なく、混獲される程度

砂の世界でひっそりと生きる、視界に入りにくいカニだ。

🌙 詩的一行

白い殻が砂に触れ、波の記憶をなぞるように静かに沈んでいく。

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