森の道を歩くと、足もとで小さな音がする。
乾いた葉の上に落ちたどんぐりが、ころんと転がる。
風に押され、雨に濡れ、少しずつ土の中へ沈んでいく。
その動きを誰が見ているわけでもない。
けれど森の時間は、そうした小さな出来事の積み重ねでできている。
目立たぬ実のひとつひとつが、
次の季節の礎となっていくのだ。
冬の森は静かだ。
鳥の声も少なく、動物たちの姿も見えない。
けれどその下では、無数の命が息づいている。
落ちたどんぐりは殻の中で眠り、
雪が溶けるのを待っている。
春が来て、光が戻る。
凍っていた地面がゆるみ、
どんぐりの中の芽が、そっと殻を破る。
やがて小さな双葉が顔を出し、
風に揺れながら、空の青さを知る。
森は、落ちることで続いていく。
枝から離れ、土に触れ、やがて芽吹く。
その一連の流れに、始まりも終わりもない。
手のひらに残ったどんぐりをひとつ、静かに地面へ置く。
もう拾わなくていい。
森がその続きを知っているから。
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