🟦 ヒラメ5:擬態と保護色 ― 砂になる技術 ―

ヒラメシリーズ

砂底にいるヒラメは、最初から見えないわけではない。
よく見ると、そこに「魚の輪郭」は確かに存在している。

だが次の瞬間、その輪郭はほどける。
色は砂に溶け、境界は消え、
魚だったものが、環境の一部に変わる

ヒラメは、隠れる魚ではない。
自分を背景に変えてしまう魚だ。

🟦 目次

🎨 1. 擬態とは何か ― 見えなくなる戦略

擬態というと、敵から身を守るための技術だと思われがちだ。
だがヒラメの場合、それは防御だけを目的としていない。

ヒラメの擬態は、捕食と防御を同時に成立させるためのものだ。
見えなければ、狙われにくく、同時に近づかれやすい。

砂底という環境では、
派手な動きや色は、すぐに不利になる。

そこでヒラメは、
「見えない存在」であることを、生き方の中心に据えた。

🟤 2. 体色変化のしくみ ― 砂を読む皮膚

ヒラメの体色は、固定されていない。
周囲の砂や底質に応じて、色合いや模様を変化させる

皮膚の中には、色素胞と呼ばれる細胞があり、
それらが拡大・収縮することで、色の濃淡が調整される。

  • 明るい砂:薄い体色に
  • 暗い砂:濃い体色に
  • 斑点のある底:不規則な模様を再現

この変化は、数秒から数分で起こる。
ヒラメは、底質の違いを即座に体に反映させる能力を持つ。

👁 3. 目と皮膚の連携 ― 見たものを写す体

ヒラメの擬態は、皮膚だけで完結していない。
重要なのは、視覚との連携だ。

上側に集まった両目で、
周囲の砂の色、粒の大きさ、影の入り方を捉える。

その情報が神経を通じて皮膚へ伝えられ、
体色が調整される。

ヒラメは、
見たものを「判断」するのではなく、
そのまま体に写し取るように使っている。

🏖 4. 擬態が支える生活 ― 隠れるためではなく

擬態によって、ヒラメは長時間、
同じ場所にとどまることができる。

これは、単に身を守るためではない。
待ち伏せ型の捕食において、
動かずに済むことは大きな利点だ。

擬態によって、
ヒラメは「そこにいない存在」になる。
だからこそ、近づいてきた獲物に対して、
一度の動きで対応できる。

ヒラメの擬態は、
逃げるための技術ではなく、
居続けるための技術だ。

🌊 詩的一行

ヒラメは、姿を消すことで、海底に自分の場所を残してきた。

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