サンゴ再生に向けた受精技術が進展
― 消えゆくサンゴ礁に、人の手ができること ―(2025年12月)
カリブ海に面したドミニカ共和国では、かつて海底一面に広がっていたサンゴ礁が、急速に姿を消しつつある。
海水温の上昇や白化現象が重なり、自然の力だけでは回復が追いつかない海域が増えている。
そうした中で注目されているのが、サンゴの卵と精子を人の手で受精させ、育てて海に戻すという再生技術だ。
失われた「出会い」を補い、次の世代につなげる試みが、現地で静かに進んでいる。
■ サンゴはなぜ増えなくなったのか
多くのサンゴは年に一度、満月の夜に合わせて卵と精子を一斉に放出し、海中で受精する。
だが近年は、サンゴ礁が点在する状態となり、卵と精子が出会う確率そのものが下がっている。
さらに白化や病気により、産卵できる親サンゴの数も減少している。
その結果、自然な繁殖サイクルが成立しにくくなっている。
■ 人工的に「受精」を手助けするという発想
現地の保全団体は、産卵期に合わせてサンゴの卵と精子を採取し、陸上施設で受精させる。
自然界では偶然に任されていた過程を、人がそっと支える形だ。
受精した幼生は、すぐに海へ戻すのではなく、一定期間育成される。
これは、自然下では極めて低い生存率を少しでも高めるための工程である。
■ 育ててから海へ ― 再生の現場
育成された幼生は、海中の専用スペースでさらに成長した後、実際のサンゴ礁へと移植される。
この方法は、単にサンゴを切り取って増やす従来の手法と異なり、遺伝的な多様性を保てる点が特徴だ。
多様な遺伝子を持つ個体が増えれば、将来の環境変化に耐える力も高まると考えられている。
■ 進み始めた成果と、残る課題
この受精技術によって、従来より多くのサンゴが成長し、海に定着する例が確認され始めている。
地域の漁業や観光にとっても、サンゴ礁の回復は重要な意味を持つ。
一方で、海水温の上昇や気候変動といった根本的な問題は残ったままだ。
この技術は「魔法」ではなく、時間を稼ぎ、未来につなぐための一手として位置づけられている。
■ 人が関わるという選択
サンゴ礁は、魚たちの住処であり、沿岸を守る壁でもある。
その再生に人が関わることは、自然への介入であると同時に、これ以上失わないための選択でもある。
海の中で静かに進むこの試みは、
人と自然の関係を、もう一度結び直そうとする動きなのかもしれない。
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出典:AP News “As reefs vanish, assisted coral fertilization offers hope in the Dominican Republic”(2025年)
― サンゴ再生に向けた、新しい技術の現場 ―
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