農林水産省は11月20日、「令和5年度 鳥獣被害の現状と対策(11月版)」を公表した。
野生動物による農作物被害は、ここ数年で地域ごとの偏りが大きくなっており、被害額そのものは緩やかに減少している一方、獣の行動が人の生活圏へ入り込む頻度は増加傾向にある。
報告によると、依然として被害の中心はイノシシ・シカ。
稲や野菜、果樹など、季節を問わず多様な作物が影響を受けている。
特に中山間地域では、耕作地と森の境目が曖昧になり、「獣が“里”に降りてくる構造」が固定化しつつある。
一方で、近年増えているのがサルやクマによる局所的な被害だ。
出没件数の増減は季節によるが、生活圏との距離が近づくにつれ、農作物だけでなく住民の安全にも配慮が必要となっている。
■ 今年の特徴 ― 動物の“動き方”が変わっている
報告では、次のような傾向が示されている。
- イノシシ:秋の実りに合わせて集落近くへ接近。冬の降雪が遅く、行動範囲が広がりやすい。
- シカ:条件の良い山の斜面を中心に増加。林内の食害が深刻で、植生の回復が追いつかない地域が多い。
- サル:里山が静かになる時間帯(早朝・夕方)に集落へ下りる群れが増加。
- クマ:出没自体は減少傾向だが、果樹を求めて一時的に住宅地周辺に現れるケースが散発。
これらの背景には、気候の変化・餌資源の偏り・森林構造の変化が複雑に関わっていると考えられる。
報告は「地域ごとの状況を踏まえた対策が不可欠」としている。
■ 進む地域の取り組み
今年は、自治体・住民・研究機関の連携による対策が広がっている。
- 電気柵・防護柵の高度化(地域メッシュに応じた設計)
- 出没情報アプリなどデジタル配信の拡大
- 集落周辺の植生管理(放任竹林や空き地の整備)
- 捕獲従事者の確保・支援と若手育成の仕組みづくり
“人と野生動物の距離”が変わり続けるなかで、
現場の取り組みは静かに、しかし確実に増えている。
晩秋の田んぼに霜が降りる季節。
その向こうの山では、獣たちもまた冬を迎える準備をしている。
その営みがぶつからないように、地域の工夫は続いていく。
🌿 せいかつ生き物図鑑・国内編
― 季節と生き物、暮らしのあいだから ―出典:農林水産省「令和5年度 鳥獣被害の現状と対策」(2025年11月版)
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