🐗イノシシ7：狩猟と供養

― 山の掟 ―

朝霧の山に、犬の声が響く。
足跡を追い、風の向きを読む。
狩人とイノシシの間には、古くからの約束がある。
それは生と死の境を知る者たちだけが守る掟。

🌾目次

イノシシ狩りは、古くから山の暮らしの中心にあった。
罠・槍・銃――時代ごとに道具は変わっても、
「命をいただく」意識は変わらない。
犬を使って追い、風と音を読む。
一瞬の判断に山の経験が集約される。
狩猟は単なる生計手段ではなく、
自然への畏れと調和の表現でもあった。

狩ったあとの山には、静かな時間が訪れる。
かつて多くの地域で「イノシシ供養」が行われた。
頭や骨を祀り、山の神に感謝を捧げる。
それは狩猟が“奪うこと”である前に、
“還すこと”でもあったという記憶。
祈りは、山の恵みを絶やさぬための契りだった。

山の掟は、誰かが定めた法律ではない。
獣を過剰に追わず、季節を見て山を歩く。
母獣を避け、幼獣には手を出さない。
その暗黙の約束が、長く生態の均衡を支えた。
現代では失われつつあるが、
山の人々の心には今もその掟が息づいている。

山の静けさの中に、祈りの音だけが残る。