🌰どんぐりという実

ドングリと森の動物たち

森の道を歩くと、足もとでころん、と小さな音がする。
茶色い帽子をかぶったその実こそ、ブナ科の木々が秋に落とす果実――どんぐりだ。

日本には約20種類のどんぐりがあり、コナラ、クヌギ、アベマキ、シラカシ、マテバシイなどが代表的。
見た目は似ているが、樹木ごとに形も質感も違う。
丸くころんとしたもの、縦に長いもの、筋の入ったもの、光沢のあるもの。
森の中で拾い集めて並べてみると、それぞれの木の個性がよくわかる。

どんぐりは木の“種”だ。
しかし植物の種にしてはずいぶん大きい。
硬い殻の中には、発芽に必要なでんぷんがたっぷり詰まっていて、
春が来るまで寒さに耐えるエネルギーを蓄えている。

ブナ科の木々は花粉を風にのせ、春に受粉し、
夏の間に実を太らせ、秋に一斉に地面へ落とす。
その光景は森の“収穫祭”のようだ。
地面に転がる無数のどんぐりを見ていると、
ひとつひとつが次の森の芽を抱いていることに気づく。

けれど、すべてが木になるわけではない。
多くの実はリスやカケスに運ばれ、冬の食糧となる。
しかし動物たちの“隠し場所”のいくつかは忘れられ、
春にはそこから新しい木が芽吹く。
森は動物の記憶と忘却によって育っていく――
そんな不思議な関係の中で生まれ変わっているのだ。

どんぐりを拾い上げて指先に乗せると、
そこには小さな森の時間が詰まっている。
秋の午後、光の中でその重みを感じると、
森という存在が少し近くなる。

次へ→どんぐりを運ぶ動物たち

📖 ドングリと森の動物たちTOPへ

コメント

タイトルとURLをコピーしました