- 分類: ミカン科ミカン属
- 学名: Citrus junos
- 分布: 主に徳島・高知・奈良など西日本の山間地
- 樹高: 約3〜5m
- 果実: 直径6〜8cm、果皮が厚く凹凸があり、香りが強い
- 香り成分: リモネン、ピネン、シトラールなど
- 用途: 調味・薬味・風呂用・観賞・加工(乾皮・果汁)
生態 ― 原種の姿と特徴
本柚子(ほんゆず)は、現在栽培されるユズの原型とされる在来品種。 果実はやや扁平で厚い果皮をもち、香りが強く酸味も鋭い。 枝はトゲが多く、若木のうちは剪定が難しいが、 寒さに強く標高400〜600メートルの山間部でも安定して実をつける。
果皮の油胞にはリモネン・ピネンなどの精油成分が多く含まれ、 香りの濃度は改良品種よりも高い。 果汁よりも果皮の香りに特徴があり、 古くから「香りを採るためのユズ」として扱われてきた。 種子は大きく数も多いが、その多様性が交配の基礎となり、 後の品種改良につながった。
文化 ― 山里に残る古い木
徳島県木頭や高知県馬路、奈良県十津川など、 本柚子の古木は今も山里に残る。 樹齢百年を超えるものもあり、 人が手を加えなくても毎年実をつけることから、 「放っておいても実る木」として親しまれてきた。
厚い果皮は香りが強く、乾燥させて薬味や風呂用に使われた。 果汁は酢の代わりに料理や保存食に利用され、 山村の暮らしを支える酸味だった。 人が山を離れたあとも木は実を結び、 その香りが里の風景を残している。 在来のユズは、土地の時間とともに生きる植物だ。
詩 ― 山の木の記憶
冬の山に、ひときわ黄色い実が光る。 枝のトゲに注意しながら果実を手に取ると、 指先から香りが広がる。 その香りは、長い年月を生きてきた木の記憶のようだ。 人が去っても、木は静かに香りを放つ。 山の空気の中で、ユズは季節を続けている。
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