🍋ユズ3:冬の香り ― 実る季節と寒さの中で ―

ユズシリーズ

― 寒さが香りを澄ませ、果実が黄金に変わる ―


 生態 ― 冬に香る仕組み

ユズの果実は10月にかけて黄色く色づき、 11〜12月に香りの最盛期を迎える。 低温にさらされることで果皮内の水分が減り、 油胞に含まれる精油の濃度が上昇する。 これを「寒締め」と呼び、冬のユズ特有の鋭い香りを生む。 香り成分のリモネン、シトラール、γ-テルピネンは 冷たい空気の中で揮発しやすくなり、 遠く離れた場所にまで香りを運ぶ。

果実は寒さに強いが、凍結には弱い。 霜が降りる朝の収穫は避け、 太陽が上がってから手でひねるように摘み取る。 このとき果皮を傷つけないことが、 香りの質を保つ秘訣とされている。


 文化 ― 冬を知らせる果実

ユズは冬の訪れを知らせる果実として、 人々の暮らしに深く根づいてきた。 冬至の日には湯に浮かべて邪気を払い、 その香りで一年を締めくくる。 収穫後の果実を玄関や台所に吊るす風習は、 寒さの中で香りを絶やさぬための知恵でもあった。

徳島・高知・大分などの山間地では、 年の瀬になるとユズを贈り合う習慣が今も残る。 「香りを分ける」ことは「福を分ける」と同義で、 実を手渡すことが挨拶や感謝のしるしとなる。 冬の畑で黄色く光る果実は、 寒さの季節に小さな太陽を灯してきた。


 詩 ― 冬の静けさの中で

霜の降りた朝、畑に立つと、 指先に触れた果実から香りがひらく。 空気は冷たく、息は白い。 それでも、ユズの香りが漂うだけで、 冬は少しやわらかく見える。 寒さが香りを澄ませ、 その香りが人の記憶をあたためていく。


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