🍋ユズ2:木と花 ― 山に生きる柑橘 ―

ユズシリーズ

― 白い花が咲くとき、山は静かに香りに包まれる ―


 生態 ― 樹形と花のしくみ

ユズの木は常緑低木で、樹高はおよそ3〜5メートル。 枝には長いトゲをもち、葉の付け根には小さな翼葉がある。 このトゲは動物の食害から身を守り、 山風を受けるときのクッションにもなる。 幹は灰褐色で、年を経るほど表面がひび割れて味わいを増す。

花期は5〜6月。枝先に白い五弁花を咲かせ、 強い芳香を放つ。 花粉は重く、風よりもミツバチやハナアブによって運ばれる。 そのため晴れて穏やかな日ほど結実が多い。 花芽は前年の夏に作られるため、 剪定を控えることで翌年の花数を保てる。 花から果実まで、時間をかけて季節をめぐる植物だ。


 文化 ― 家を守る木、香りを残す花

ユズは古くから庭木として人の暮らしに寄り添ってきた。 鋭いトゲが魔除けの象徴とされ、 家の東や南に植えると厄を防ぐといわれた。 また、風を和らげる防風樹としても重宝され、 家と畑の境界を示す「境の木」として残る地域も多い。

花の香りは初夏の象徴。 摘んだ花を和紙で包んで衣装箱に入れ、 香り袋として楽しむ風習があった。 短い花期を閉じ込めるその習慣は、 香水文化のなかった時代の“季節の記録”でもあった。 農家の人々は、花が咲くとその年の実りを占い、 「花の多い年は寒くなる」と言い伝えた。


 詩 ― 花の香り、風の記憶

山の斜面に白い花が咲く。 風が通るたび、香りがひとすじ流れていく。 その匂いを追っていくと、どこかで蜂の羽音が響く。 春と夏のあいだに立つような瞬間、 ユズの花だけが季節の境界を知らせている。


🍋→ 次の記事へ(ユズ3:冬の香り ― 実る季節と寒さの中で ―)
🍋→ ユズシリーズ一覧へ

コメント

タイトルとURLをコピーしました