― 香りは山からはじまり、また山へ帰る ―
生態 ― 野生と栽培のあいだで
ユズの原種は、古く中国の揚子江流域で生まれたと考えられている。 その後、人の手によって日本へ伝わり、 四国や九州の山間部で自生化した。 野生のユズは小ぶりで酸味が強く、トゲも多い。 それでも山の斜面に根を張り、 ほとんど手をかけずに果実を実らせる。 この野生の強さこそが、 ユズという植物の根本的な生命力だ。
一方で、栽培品種は果実が大きく、香りも穏やか。 人の暮らしとともに形を変えながら、 それぞれの土地で“香りの系統”を育ててきた。 野生と栽培、その境界にこそ、 ユズの多様さが息づいている。
文化 ― 種から芽へ、受け継がれる香り
ユズは接ぎ木で増やすのが一般的だが、 古い家では今も「種をまく」習慣が残る。 祖父母が食べたユズの種を庭に埋め、 芽が出たら小さな鉢で育てる。 十数年を経てようやく花が咲く頃、 その香りはどこか懐かしく、 家の歴史の一部になる。
種を受け継ぐという行為は、 香りを未来へ送ることでもある。 山で実った果実が人の手を渡り、 またどこかの土に根を下ろす。 香りは形を変えながらも、 人と自然のあいだを静かに巡っていく。
詩 ― めぐる香り
風にのって、香りが山を越える。 落ちた果実の中で、種が眠る。 春になれば芽を出し、 また新しい香りがはじまる。 その繰り返しが、山の時間をつくっている。
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