― 家の片隅に立ち、季節を知らせる木 ―
生態 ― 庭木としてのユズ
ユズは古くから庭木として親しまれてきた柑橘だ。 耐寒性が強く、日当たりと排水のよい土地であればよく育つ。 枝にはトゲがあり、若木のうちはやや扱いにくいが、 毎年確実に花を咲かせ、果実を実らせる。 この“律儀な生態”が、家の守り木として選ばれた理由でもある。
春に咲く白い花は甘く、初夏の風に香りを放つ。 秋には青い実が黄色に変わり、冬の台所に並ぶ。 庭のユズは、季節の巡りを家族に教える時計のような存在だ。
文化 ― 家と風景に根づく木
昔の家では、門の近くや台所の裏手にユズを植える風習があった。 香りが邪気を払うと信じられたほか、 果実をすぐ手に取れる場所に置くことで、 日常の料理や風呂に使いやすくした生活の知恵でもあった。
家のユズは、代を越えて受け継がれることが多い。 祖父母が植えた木が、子や孫の代に花をつけ、 冬至の日にその実を風呂に浮かべる。 その光景は、どこの地域にも共通して残る“冬の記憶”だ。 ユズの木は、庭の中で家族の時間を見つめ続けている。
詩 ― 香りの残る庭
冬の朝、霜をまとった葉の上に陽が落ちる。 枝先に残る果実が、光を返す。 誰かの手がその実を摘むたびに、 香りが空へと昇っていく。 庭の時間は、静かに続いている。
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